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25話 頼れ

 翌朝。

 食事をいただいた後、みんなで集まり、レティシアの対策を考える。

 なかなか良いアイディアが思い浮かばないらしく、みんな頭を悩ませていた。


 一人……サナはのんびりと客間にあった本を読んでいる。

 たまに「いやらしいっす!」とか「最近の人間は過激っす!」とか聞こえてくるのだけど、いったい、なにを読んでいるのだろう……?


 それはともかく。


 みんなで頭を悩ませているのだけど……

 それ以前に、俺はこの状況に疑問を持つようになっていた。


「えっと……みんな、ちょっといいか?」

「どうしたの、ハル? なにか思いついた?」

「そうじゃなくて……」


 よくよく考えてみると、アンジュとナインは関係ない。

 サナも無関係だ。


 それなのに、いつの間にか二人を巻き込んでしまっていて……

 そして、力を貸してもらうことを当たり前として受け止めてしまっていた。


 それはダメだ。

 アリスでさえ心苦しいと思っているのに、本来はまったく関係のないアンジュとナインを巻き込んでしまうなんて……

 普通に考えて、許されるはずがない。


 ……そんなことを口にすると。


「ハルさん。あなたがとても優しい方ということは理解しました。ですが、どうかそのような寂しいことを言わないでください」

「私はお嬢さまのためという理由がありますが……ですが、それだけではありません。ハルさま。大恩あるあなたさまのために、力になりたいと思うのです」

「うーん……そう言ってくれるのはうれしいんだけど、いつまでも二人に甘えるわけには……」


 いや、しかし。

 ここまで関わっている二人に対して、無関係と言う方が失礼なのか?

 不意にそんなことを思う。


 アンジュもナインも優しい。

 そんな二人の命を、一応、俺は助けたことになる。

 だからこそ、二人は俺の力になりたいと思い……


 いや、でも、そのために俺の個人的な都合に巻き込むわけには……

 だけど、距離を取る方が失礼ということも……


「え、えっと……?」


 どうしていいかわからなくなり、混乱してしまう。

 俺は、どうすればいいんだ?


「ねえ、ハル」


 完全に道を見失っていると、アリスが優しい声で言う。


「そんなに悩むことはないんじゃない?」

「え? 俺の考えていることを……」

「わかるわよ。ハルってば、ものすごく顔に出ているんだもの。それでもって、色々とわかりやすい」


 アンジュとナインを見る。

 二人はコクコクと頷いた。


 サナを見る。


「師匠って、絶対にウソとか苦手っすよねー、あはははっ」


 サナにそう言われてしまうのは、ちょっとショックだった。


「困っている時に、一人で解決しなくちゃいけない、っていう法はないのよ?」

「それはそうだけど、でも……」

「人を頼ることは悪いことじゃないの。人は一人で生きることはできないんだから、手を取り合うのが基本なのよ。もうしわけないと思うのなら、次に恩返しをすればいいの。距離をとるような真似をして、遠ざけられる方は、わりとショックなのよ? それに……あたしたち、もう友達でしょう?」

「……友達……」


 その言葉が胸にストンと落ちた。


「友達だから、見返りなんて求めないの。困っているのなら、無条件で助けるし……それに放っておけないの。遠ざけられる方が困るの。そういうものじゃない?」

「……そう、だな」


 うん……アリスの言う通りだ。


 出会って間もないけど……

 アンジュとナインのことは、友達だと思っている。

 そんな二人を遠ざけるようなことをしたら、怒られるのは俺だ。

 間違っているのは俺だ。


「ごめん、俺が間違ってた」

「うん、よろしい」

「私は気にしていませんから」

「お嬢さまに同じく」

「自分は、どこまでも師匠についていくだけっすよー!」


 みんな笑顔で俺のことを受け入れてくれた。

 この笑顔に応えられるように。

 信頼を守り抜くために。

 がんばっていこうと思う。


 ただ、これだけはきちんとしておかないといけない。


 俺はみんなの前に立ち……

 それから、頭を下げる。


「俺……レティシアのこと、どうしていいかわからないところがあるんだ。だから、みんなの力を貸してほしい。おねがいします!」


 顔をあげて、みんなの顔を見た。


 みんなは互いに顔を見合わせて……

 こくりと、示し合わせたように頷く。

 それから、再びの笑み。


「「「もちろん」」」

「やるっすよー!」


 ちょっと大げさかもしれないが……

 この瞬間、俺たちの心は一つになったような気がした。




――――――――――




「それじゃあ、改めて対策を考えましょうか」


 アリスが仕切り直すように、そう言う。


 と、その時。

 慌ただしい音と共に、扉が開かれた。


「し、失礼しますっ」


 姿を見せたのは、この屋敷で働くメイドさんだ。

 ひどく慌てた様子で、ノックも忘れていた。


「どうしたのですか、騒々しい」


 そんなメイドさんを、ナインさんは厳しく睨みつける。

 ナインさんはメイド長のような立場らしく、部下のミスは許さない。


「も、もうしわけありませんっ。しかし、一大事でして……」

「……なにかあったのですか?」


 メイドさんの慌てっぷりを見て、なにかしら事件が起きたのだろうと判断したらしく、ナインさんの声音が少し柔らかいものになる。

 それで落ち着きを取り戻すことができたらしく、メイドさんは慌てている理由を告げる。


「冒険者ギルドが……アンジュさまの拘束命令を出しました」

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] どういうことだ!?アンジュを拘束するだと? レティシアのアマが仕込んでんじゃねえだろうな?
[一言] あ~レテが壊した墓の責任 押し付けたんだなw 悪いやっちゃw
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