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248話 武術都市

 無事に馬車の旅が終わり……

 ……無事だったのかな?


 途中、サナが変なきのこを食べて暴れたり。

 シルファが迷子になって、大きな獣と一緒に帰ってきたり。

 色々なトラブルがあった。


 ……まあ、いいや。うん。

 怪我とかはしていないから、無事と言っても問題なし!


 で、武術都市なんだけど……


「なんか、おもしろい作りをしているね」


 街の中央まで、まっすぐに広い道が伸びている。

 左右にずらりと建物が並んでいて、壮観な眺めだ。


 ここまでなら、よくある作りなのだけど……

 一点、普通と違うところがある。


 それは、街の中央にあるのが領主の屋敷などではなくて、闘技場ということだ。

 けっこうな距離が離れているのだけど、それでもハッキリと見えるくらいに大きい。


 闘技場を中心に考えられている都市なんて、他にはないのでは?

 さすが、武術都市と言われるだけのことはある。


「領主の屋敷は……」

「あちらではないでしょうか?」


 ナインが示す方向を見てみると、丘の上に大きな屋敷が。

 確かにそれっぽい。


「すぐに気づくなんて、すごいね。ナインは目がいい?」

「ありがとうございます」

「うーん?」


 なんだか、少し前からナインがやたらとかしこまっているように見える。


 なんていうか、こう……

 主であるアンジュと同じように接してきているような?


 なんでだろう?

 彼女の主はアンジュだけなのに。


「とりあえず、屋敷を訪ねるのは明日にしようか」


 もうすぐ日が暮れる。

 紹介状を持っているとはいえ、この時間に訪ねるのは非常識だろう。


「なら、宿を探しましょうか?」

「この時間なら、たぶん、良いところが見つかると思いますよ」

「わたくしは、ハルさまと二人の部屋で……」

「「え?」」

「じょ、冗談ですわ。ですから、急に真顔にならないだくださいませ」


 女性陣の距離が近くなっているような?

 よくわからないけど、仲良くなれたのなら、それはうれしいことだ。


「こちら、宿のリストになります」


 そう言って、ナインが宿の一覧をまとめたノートを差し出してきた。


「え? いつの間に調べていたの?」

「こんなこともあろうかと、学術都市を出る前に」

「な、なるほど」


 ナインって、完璧メイドさん……?

 もしもこんな人が身近にいたら、なんでもかんでも任せて、ダメになりそう。


 その点、アンジュはとてもしっかりとしている。

 うん。

 彼女は努力を怠らないから、そういうところはすごいと思う。


「あ、あの……ハルさん?」

「うん?」

「褒めていただけるのはうれしいのですが、その、唐突にそんなことを言われてしまうと、えと……」


 アンジュが頬を染めて、もじもじとした。


 しまった。

 考えていること、そのまま口にしていたみたいだ。


「ご、ごめんね。俺としては、素直なことを思っただけで……」

「あう」

「ハルさま。お嬢さまが照れ死にしてしまいそうなので、その辺にしていただけると」


 照れ死ってなんだろう……?


「と、とりあえず、宿を探そうか」


 ナインが作成してくれたリストのおかげで、宿を探して迷うことはない。

 あとは、タイミング良く部屋が空いていることを祈ろう。


 良さそうな宿をピックアップして、そちらへ向かう。

 その途中……


「うわっ」

「っと!?」


 男の子が駆けてきて、ドンッとぶつかってしまう。


 突然のことだけど、軽くよろける程度で済んだ。

 ただ、相手の子は尻もちをついてしまう。


「ごめんね、大丈夫?」

「ううん、俺の方こそごめん、兄ちゃん。ちょっと前を見てなくて……」

「いいよ」


 手を貸して立ち上がらせる。

 見たところ怪我はしていないみたいだ。


「じゃ、俺は行くよ。兄ちゃん、ホントにごめんな」

「ううん、いいよ。気にしないで」

「サンキュー」


 男の子はにっこりと笑うと、軽く手を振り走り去る。

 その様子を、俺は微笑ましく見送り……


「あっ……ハル、あの子を追いかけるわよ!」

「え?」


 突然、アリスが駆け出した。


「ポケット!」

「……あっ!?」


 アリスの仕草を見て、自分のポケットを探ると、そこにあったはずの財布がない。

 もしかして、今の男の子が!?

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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