245話 あなたのためにも祈りを
七層に続く階段をゆっくりと降りていく。
普通、階段に魔物は出現しないし、トラップもない。
「ねえ、アンジュ」
「はい?」
「ところで、さっきはどうやって本物の俺を見分けたの?」
「えっ」
「すごく迷っていたみたいだけど、最後はとても自信たっぷりだったから……なにかコツとかがあるのかな、って」
「え、えっと、その、あの……はう」
なぜかアンジュは顔を赤くしてしまう。
うーん……
よくわからないけど、深く聞かない方がいいのかな?
俺が同じような状況に陥った時に備えて、対処法を聞いたおきたかったのだけど……
でも、次は最下層。
トラップはなにもないはずだから、そこまで心配する必要はないかな?
「あ、ついたね」
ほどなくして最下層に到着した。
通路がまっすぐ伸びていて、大きな扉が見える。
その向こうが歴代勇者の墓になっているのだろう。
「いこうか」
「はい」
アンジュと力を合わせて扉を開ける。
歴代勇者の墓ということで、とても丁寧に作られているのだろう。
扉は錆びついていることはなくて、スムーズに開いた。
「これが……」
扉の向こうには小さな部屋が。
いつか見た時と同じように、中央に歴代勇者の墓が見える。
「ハルさんは、ここで待っていてくれますか?」
「うん、了解」
アンジュはゆっくりと墓の前へ。
それから、膝をついて両手を合わせ、祈りを捧げる。
「……」
ほどなくして、アンジュの体から光の粒があふれだした。
それはホタルの光のように、どこか幻想的で……
見る者の心をがっちりと掴む、とても綺麗な光景だった。
(……勇者、か)
心の中でつぶやいた。
歴代の勇者は、なにを思い、その称号を授かったのだろう?
なにを考えて、英雄的な行動をとったのだろう?
ここにいると、どうしてもレティシアのことを考えてしまう。
勇者にならなければ、彼女は……
(って、順番が逆か)
悪魔に取り憑かれて、それから勇者になったわけで……
勇者になったことが悪いわけじゃないか。
うーん。
なんか、レティシアのことになると、ちょっと思考が乱れるな。
それだけ気にしているのか?
それとも、過去のトラウマが刺激されているのか?
自分では判別ができなかった。
「……ふぅ」
ほどなくして、アンジュがゆっくりと立ち上がる。
どうやら祈りが終わったらしい。
「おまたせしました」
「うん、おつかれさま。疲れていない?」
「大丈夫です。こういう場以外でも、祈りを捧げることはよくあることなので」
「そうなの?」
「はい。私は、神に仕える身ですから。毎日のお祈りは欠かしていません」
なるほど。
言われてみれば納得の話だった。
「ただ……」
なぜかアンジュは頬を染めつつ、微妙に視線を外しながら言う。
「その……これからは、ハルさんのためにもお祈りをしますね」
「え、なんで?」
「その、えっと……そ、そういう気分なんです!」
「ありがとう?」
突然、どうしたんだろう?
不思議に思いながらも、まあいいか、と断らないでおいた。
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