244話 真実の……
「アンジュ、俺が本物だよ。よく見ればわかるよね?」
一人目のハルさんが、そう言って自らが本物であると訴えてきました。
私は、じっと一人目のハルさんを見つめます。
観察します。
不自然なところはないか?
違和感はないか?
いつもと違うところはないか?
些細なポイントも見逃さないように、じっと見つめました。
「騙されないで、アンジュ。こいつは偽物。本物は俺だよ」
二人目のハルさんも、同じく自分が本物であると訴えてきました。
その目は真剣そのもの。
とてもじゃないけれど、ウソをついているようには見えません。
「えっと……」
ど……ど、どうしましょう?
まったくわかりません……
顔は同じ。
声も同じ。
雰囲気も同じ。
なにからなにまで同じで……
がんばると言ったのだけど、情けないことにまったく区別がつきません。
うぅ……ど、どうすれば?
「アンジュ、騙されないで!」
「俺が本物だよ!」
「え、えっと……」
二人のハルさんが迫ってきました。
その分、私は後退します。
一人目のハルさん。
二人目のハルさん。
いったい、どちらが本物なのでしょうか……?
「うぅ……」
情けない。
普段、一緒に過ごしていて……
それなのに、いざという時に本物と偽物の区別がつかないなんて。
ハルさんに申しわけないです。
失望されたとしても仕方ありません。
「……失望……」
そう考えると、なぜかとても怖くなりました。
魔人という、とんでもない敵と相対した時よりも怖くなりました。
このままだと、私は……
「……いえ」
諦めるわけにはいきません。
これからもハルさんと一緒にいるため。
一緒にいたいから。
だから、ここは絶対に失敗するわけにはいきません。
「んっ……!」
二人のハルさんを交互に見比べて、何度も何度も確認します。
ほんの些細な違和感も見逃さないように、じーっとじーっと見つめます。
そして……
「あれ?」
ふと、そのことに気が付きました。
二人目のハルさんを見ていると、なぜか胸がドキドキします。
顔が熱くなってしまいます。
なんでしょう、これは?
試しに一人目のハルさんを見てみるものの、特になにもない。
ドキドキするのは二人目のハルさんだけです。
どうして?
その理由を考えて、考えて、考えて……
「……あっ」
とある可能性に思い至りました。
いえ。
可能性というか、事実というか……
私が今まで気づかなくて、ようやく気づいたこと。
それは、私がハルさんのことを……
「アンジュ?」
「顔が赤いよ? どうかしたの?」
「い、いいい、いえっ、なんでもありません!」
「「?」」
「と、とにかく……本物のハルさんがわかりました!」
「「え、本当に?」」
「はい。本物のハルさんは……」
私は、二人目のハルさんを指さします。
ドキドキして、勝手に顔が熱くなってしまう方のハルさん……
この方こそが本物です!
「こちらです!」
そう宣言した瞬間、一人目のハルさんが無表情になりました。
動かなくなり……
そして、そのまま蜃気楼のように消えてしまいました。
それと同時に、最下層へ続く階段が現れます。
合格……ということでしょうか?
「……うん」
今は自信を持って言えました。
だって……
女性が、慕っている男性を間違えるわけがありませんから。
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