242話 あと一歩
その後、四層、五層を苦戦しつつも突破することができて……
最下層まであと少しという、六層までやってきた。
「試練はこれが最後かな?」
「おそらくは。七層は歴代勇者さまのお墓になっているので、ここまでかと」
やっとここまで、と感慨深くなってしまう。
というのも、四層と五層が今まで以上に大変だったのだ。
具体的に、どんな試練が用意されていたのか?
それは……
……いや、やめておこう。
思い返すのも恐ろしいというか、恥ずかしい。
あんなことやこんなことが……
ダメだ。
考えるだけで顔が熱くなる。
「……ハルさん」
「え?」
「もしかして、さっきのことを思い返していますか?」
「そ、それはその……」
「うぅ……できれば、私のあんなはしたないところは忘れていただけると……」
「ど、努力します、ごめんなさい……」
うん。
忘れることが大事、っていうことはあるよね。
これ以上は考えないことにして、六層の攻略に集中する。
「えっと……」
今までと同じく、試練の内容が書かれた石版が設置されていた。
「汝、真実の愛を見つけよ……?」
「どういう意味でしょうか?」
「さあ……?」
毎度のことながら、意味深というかよくわからない内容だった。
真実の愛、っていうことは……
恋人じゃないと六層を突破できないとか?
だとしたら詰んでしまうのだけど、でも、さすがにそれはないか。
そんな限定的な条件、聞いたことがない。
「とりあえず、注意しつつ進んでみようか」
「はい」
「どうぞ」
「し、失礼します……」
なにが起きてもいいように、はぐれないように、アンジュと手を繋ぐ。
最初は恥ずかしかったのだけど、少し慣れてきた。
アンジュはまだなのか、ちょっと顔が赤い。
そんな彼女と一緒に、六層を進んでいく。
それほど広くない通路をまっすぐ一本道。
分岐道はなく、さらに魔物が出てくることもない。
もしかしたら、このまま七層へ行けるかも?
……なんて甘いことを考えていた時期がありました。
「わっ!?」
「きゃっ!?」
突然、明かりが消えて真っ暗に。
「アンジュ!」
「は、はい!」
これでも、それなりの修羅場はくぐってきたつもりだ。
慌てることなく、俺とアンジュはなにが起きてもいいように、なにが襲いかかってきてもいいように身構える。
視界を奪い、攻撃をしかける。
あるいは魔物を解き放つ。
悪質なトラップの一種として、たまにあることだ。
「……」
「……」
警戒して、いつでも動けるように構えて、神経を張り巡らせる。
わずかな音も聞き逃さないように耳を澄ます。
でも……
「なにも……起きませんね」
「そう、だね」
なにかしらの罠は確定だと思うのだけど、なにも起きない。
すでに三分ほど経っているのだけど、なにもない。
これから敵が襲いかかってくる様子はないし、物が落ちてくる気配もしない。
油断させておいてバッサリ、という可能性はなくはないのだけど……
それにしては時間が経ちすぎているような?
もしかして、不発?
「ハルさん、どうしましょう……?」
「えっと……」
考えて、
「もう少しだけ様子を見て、それでなにもなければ先へ進もう。少しずつ目も慣れてきたから、たぶん、大丈夫」
そんな声が聞こえてきた。
「あっ」
その時、明かりが点いた。
「よかったです、明かりが点きましたね。これで、先へ……進む……ことが?」
アンジュがこちらを見て、ぽかんと目を丸くした。
それもそのはず。
なぜか、俺が二人いたのだから。
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