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240話 ドキドキ

 うー……

 これはいったい、どういうことなのでしょう?


 ただ単に、ハルさんと手を繋いでいるだけなのにドキドキが止まりません。

 こころなしか体も熱くなって、ふわふわとした気持ちになってしまいます。


 ただ、これが初めてというわけではありません。

 たまに、こんなことになることがありました。


 その最初の記憶は……


「大丈夫?」


 そう優しく声をかけてもらい、ハルさんに助けてもらった時のこと。

 出会いの記憶。


 あの時から、どうしてかハルさんと一緒にいるとドキドキするようになりました。

 なにかの病気ではないかとナインに相談したのですが、なぜか優しい顔をされて、問題ありませんと。


 そして……


 今は、過去最大級のドキドキ。

 もう私の心臓はどうにかなってしまいそうです。


 うー……

 本当に大丈夫なんでしょうか?

 病気とかじゃないんでしょうか?

 とにかく不安です。


「アンジュ?」

「ふぁ!?」


 気がつけば、ハルさんの顔が目の前に。

 ち、近いです!


「ぼーっとしていたみたいだけど、大丈夫?」

「だ、大丈夫です」

「本当に? もう一回、熱を測ってみた方が……」

「だっ、だだだ、大丈夫でひゅっ!」

「そ、そう?」


 ものすごい勢いで否定して。

 ついでに噛んでしまって、ハルさんはちょっと驚いていた。


 うぅ、私はなにをやっているんですか。


「わ、私のことなら問題ないので、とにかく先へ進みましょう」

「うん、了解。ただ、無理はしないでね? 辛いようならすぐに言って」

「……はい、ありがとうございます」


 ハルさんは優しい。

 とても優しい。


 一時期、辛い経験をされていたのに……

 それでも心が曲がることなく、まっすぐであり続けることができる。

 それは彼の才能なのだと思う。


 ハルさんは、優しさの才能を持っている。


 そんなハルさんのことが、私は……


「あれ?」

「どうしたの、アンジュ?」

「いえ、なんていうか……今、なにかにたどり着きそうな気が……」


 私の中のモヤモヤを解決してくれる答え。

 それを得ることができそうになっていたのだけど……


 でも、直前で迷子になってしまいました。

 答えは見つからず、どこかへ消えてしまいました。


 むう……?


 モヤモヤが解消されるどころか、より一層深くなりました。


 ナインは、いつか自然と解消いたしますよ、と言っていたのですが……

 本当にそうなのでしょうか?

 ぜんぜん解決できる気がしません。


「あ……」


 ふと、繋いだ手がぎゅっとされました。

 驚く私に、ハルさんはなにも言わず、ただにっこりと笑いかけてくれます。


 もしかして……

 私が不安になっているのを感じて、それを励まそうと?


「……はぅ」


 不安は消えました。

 ハルさんの笑顔を見ていたら、なんでもなくなりました。


 でも、その分ドキドキが強くなりました。

 私の心臓の鼓動、ハルさんに聞こえてしまうのでは?

 そんなことを思うくらい、とても強いです。


「ねえ、アンジュ」

「は、はい?」

「いつもありがとう」

「え?」


 突然、どうしたのでしょう。

 私は目を丸くするのですが、それに構わず、ハルさんは笑顔で話をします。


「アンジュが一緒にいてくれて、すごく助けられているから。本当は、なにかプレゼントとか贈りたいんだけど、なかなか思い浮かばなくて……だから、まずは感謝を伝えるだけでもしておかないと、って思って」

「えっと……私は、特にハルさんのお役に立てていないと思うのですが」

「そんなことないよ、いつも助けられている」

「ですが……」

「アンジュの優しい笑顔で落ち着くことができるし、絶妙なタイミングでサポートしてくれるし。それに、一緒にいるとほっとするし、楽しくて、自然と笑顔になるんだ。それから……」

「あわわわっ」


 私の良いところをどんどん挙げていくのですが……

 これはなんですか? 羞恥攻撃というやつですか?


 私、すごく恥ずかしいです。

 たぶん、顔が真っ赤になっていると思います。

 とても熱いです……


「……ハルさん」

「うん?」

「私も……」


 その言葉は特に意図したものではなくて……

 スルッと、自然と出てきました。


「私も、ハルさんと一緒にいるとうれしいです」

「うん、ありがとう」

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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