239話 二人の試練
「手を……」
「繋ぐ……?」
俺とアンジュは石版を見て、それから相手の顔を見た。
「これ、どういうことだろう?」
毒針に落とし穴。
トラバサミにモンスターハウス。
迷宮都市で色々なトラップを見てきたけれど、こんなものは聞いたこともない。
「こんなトラップがあるなんて」
「あの……ハルさん。たぶん、これはトラップの類ではないと思います」
「え、そうなの?」
「似たような類のものですが……おそらく、強制力を持つ結界のようなものかと。特定の行動をとらなければ先へ進めない、上層へ押し戻されてしまうなど、そのような特殊な効果があると聞きました」
「面白いというかなんていうか、色々なダンジョンがあるんだね」
世界は広い。
まだまだ俺の知らないことがたくさんだ。
「それじゃあ行こうか」
「え?」
手を差し出すと、なぜかアンジュがキョトンとした顔に。
それから自分の手と俺の手を見比べて……
「っーーー!?!?!?」
ぼんっ、と顔が一気に赤くなる。
「ど、どうしたの? 大丈夫?」
「だ、だだだ、大丈夫です……」
アンジュは大丈夫と言うけれど、とてもじゃないけどそうには見えない。
顔は赤いまま。
それどころか、ちょっとフラフラしているように見える。
「少し休憩する?」
「い、いえっ、大丈夫です! その、えと……突然のことなので驚いたといいますか、ちょっと、その……恥ずかしいだけなので」
「そう、なんだ?」
手を繋ぐだけなんだけど……
女の子からしたら、そんなこともハードルが高いのかな?
それとも、アンジュだけなのか。
うーん、よくわからない。
女心というものを勉強できればと思うけど、それ、どうやればいいんだろう?
「は、ハルさん!」
「は、はい」
アンジュの緊張が移ってしまい、俺もなんだか落ち着かなくなってきた。
「ど、どうかよろしくお願いします!」
「う、うん。こちらこそ」
とても必死な様子で手を差し出してくるアンジュ。
なるべく驚かせないように、その手を優しく握る。
「ふぁ」
「アンジュ?」
「い、いえ、だ、だだだ、大丈夫です……!」
「えっと……」
顔はますます赤く、りんごみたいだ。
視線もあちらこちらに泳いでいる。
すごく大変そうだけど……
でも、手を繋がないと先へ行けない。
「行くよ?」
「は、はい!」
俺とアンジュは手を繋いだまま、三層の攻略を始めた。
といっても、大して問題はなかった。
トラップの類はほとんどなし。
魔物は出てくるものの、やはり低レベルなので脅威にはならない。
ただ……
「ひゃっ!?」
「大丈夫?」
ちょくちょくアンジュが転びそうになっていた。
幸いというか、手を繋いでいるから倒れることはない。
ただ、アンジュを抱きとめる形になって……
その度に、彼女はぐるぐると目を回す。
「うぅ……すみません。ハルさんと手を繋いでいると思うと、なぜか、ものすごく緊張してしまって」
「ううん、俺は気にしていないから」
「普段はこんなことはないんですけど、どうしてか繋いだ手が気になって注意が疎かに……うぅ」
ものすごく申しわけなさそうだ。
俺は別に気にしていないんだけど……あっ。
「待って、アンジュ。俺の方が悪かったかもしれない」
「え? ハルさんは、なにも……」
「俺とアンジュだと歩幅が違うから。それで歩きづらくなっていたのかも」
「あ……」
「だとしたら、俺のせいだよ。ごめん」
「は、ハルさんが謝ることでは……その、気遣っていただけてうれしいです。とてもうれしいです」
アンジュは頬を染めつつ、うれしそうに言う。
それから……
そっと、繋いだ手に力を込めてきた。
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