24話 暴走する思考
ゴォッ!!!
クレスト山の斜面に極大の雷が落ちた。
隕石が落ちたかのように地面がえぐれる。
「こほっ、こほっ……少しやりすぎたかしら?」
土煙の中から、レティシアが現れた。
部屋に閉じ込められたレティシアは、自分のいる墓室を魔法で爆撃。
強引に外への脱出路を作り出した。
山をえぐり、クレーターを作るほどの威力だ。
歴代勇者の墓は見るも無残な有様になっているが……
「ったく……なんでこんなところに墓なんて作るのよ。他所に作りなさいっての。おかげで、閉じ込められたじゃない」
まったく反省している様子はない。
むしろ、逆ギレしている。
「ハルのヤツ……アリスとかいう女だけじゃなくて、見知らぬ女が二人も……あと、小さい子を奴隷にするとかなんとか……」
正確に言うのならば、ハルはサナを奴隷にしようとしてはいない。
むしろ、サナが自ら口にしたことだ。
しかし、レティシアはそんな事実はすでに忘れている。
奴隷という言葉のインパクトが大きすぎて、前後のやりとりなんて覚えていなかった。
奴隷という単語のみを記憶することになり……
結果、ハルが小さい子を奴隷にしようとしている、という誤った認識が脳に刻み込まれることに。
こうした思い込みの激しいところが、数あるレティシアの欠点の一つだ。
「ハルのヤツ、何度も何度も、この私にふざけたことをしてくれちゃって……絶対に許さないんだから! 自分の立場を、ハッキリとわからせてやる」
レティシアはメラメラと怒りを燃やして、
「……でも、どうしようかしら?」
ふと、冷静になる。
このまま追いかけるだけで、ハルを取り戻せるのだろうか?
「……難しいわね」
ハルの頑なな態度を見て、さすがのレティシアも拒絶されていることを自覚した。
……それを許容するかしないか、それは別問題ではあるが。
「っていうか、ハルのヤツ、なんでいきなり私に逆らうようになったのかしら?」
レティシアは考える。
考えて……明後日の方向の答えを導き出す。
「あの女の仕業……かしら?」
アリスとかいう女。
ハルに余計なことを吹き込んだのかもしれない。
それと、見たことのない二人の女も怪しい。
ハルによからぬことを吹き込んでいる可能性が高い。
「そうね……うんっ、そうに違いないわ!」
事実を知る者からしたら、どうしてそんな結論になる? という穴だらけで強引な推理なのだけど……
レティシアは自分の考えを否定しようとしない。
むしろ、それ以外に考えられないと、推理と強く肯定するように。
思い込みが激しい。
これもまた、レティシアの欠点の一つだ。
「ハルは後回しにして……まずは、周りから切り崩した方がいいのかしら?」
ハルが決別するとか言い出したのは、周りにいる女のせい。
そうでなければ、ハルが女と一緒にいるなんてありえない。
だから、周囲の女を排除すれば、ハルの考えも変わる。
そんな推理がレティシアの頭の中で構築された。
やはり強引極まりない推理なのだけど、あいにく、彼女の間違いを正すことができる者は誰もいない。
「となると、誰からがいいのかしら?」
ハルの周りにいる女は三人。
アリスという、冒険者風の女。
見たことのない、神官風の女。
やはり見たことのない、メイド服を着た女。
「うーん?」
レティシアはアリスのことを考えた。
あの女……どこかで見覚えがあるような?
初対面のはずなのに、ずっと昔、言葉を交わしたような気がする。
「……あの女は後回しでいいか」
レティシアの中の良心が、かつての幼馴染に対する配慮を見せたのか。
あるいは、単なる気まぐれか。
どちらにしても、アリスはターゲットから除外されることに。
「そうなると……残り二人を狙った方がよさそうね。ふふっ、どうしようかしら?」
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