237話 久しぶりの巡礼
「えっと、その……ハルさん。私は別に、巡礼はしなくても……」
アンジュが慌てた様子で言うものの、俺は御者に行き先変更を告げた。
追加料金がかかってしまうものの、それくらいは気にしない。
「そういうわけにはいかないよ。アンジュは、俺のわがままに付き合ってもらっているんだから……その上、巡礼まで邪魔をして、聖女になれなかったりしたら後悔するよ」
「うぅ、ありがとうございます」
「俺がお礼を言う方なんだから、気にしないで」
そんなわけで、方向転換。
まずは、近くの村に寄り、日程が増える分の食料や水を補給した。
それから巡礼の地へ向けて馬車を走らせる。
「今度の巡礼地は、どんなところっすか?」
興味があるのか、サナがそんなことをアンジュに尋ねていた。
「確か、特殊なダンジョンにあると聞いていますが……」
「うへえ、またダンジョンっすか」
「めんどくさそうだね。サナ、ぽかぽか陽気の方がいいよ」
「ダンジョンというか、巨大なお墓と考えた方がいいかもしれません」
「歴代勇者さまの功績を讃えて巨大なお墓が建造されて、しかし、それ故に管理できる者がいなくなり放置されてダンジョンに……という流れのようです」
ナインがスラスラと説明してくれる。
でも、なんでナインが知っているのだろう?
アンジュのメイドだから、聖女関連のことも完璧に調べているのだろうか?
なんて万能メイドさん。
「放置されたダンジョンとなると、危険かもしれませんわね。もしかしたら、希少種が育っているかもしれませんわ」
「希少種って、自然に発生するものなの?」
「ええ。基本的に、異常進化したものが希少種ですわ」
アリスの質問に、クラウディアは教師のようにテキパキと説明をする。
「長い時を生きる、あるいは過酷な環境に適応するため……などなど、特異な状況下で力を身に着けたものが、希少種に進化するのですわ」
「過酷な環境に適応するための進化だから、強い力を持っていることが多い……だったっけ?」
「その通りですわ。ハルさまは、よく勉強されているのですね」
「一応、魔法学院の生徒だったからね」
長い間、滞在することはなかったのだけど……
それでも、魔法学院で過ごした時間はとても有意義なものだった。
知識も増えたし力を身につけることもできた。
時間に余裕があれば、また通いたいくらいだ。
「希少種がいるかもしれないのね……ちょっと不安ね」
「そうですね……」
「大丈夫っす! この自分がいるから、なんの心配もいらないっす!」
「「「……」」」
「あれ!? なんすか、その反応!?」
サナはとても強いのだけど……
でも、とてもやらかすことが多いので、安心か不安かと問われると後者になってしまう。
「詳しいことは知らないんだよね?」
「はい、残念ながら……」
「なら、あれこれ考えても仕方ないよ。準備はしっかりとしておいて、なにが起きても大丈夫なように心構えをしておこう」
そんなことを口にした俺だけど……
この時は、まさかあんなことになるなんて思ってもいなかった。
――――――――――
「……二人しか入れない?」
目的のダンジョンに到着したのだけど……
そこで衝撃的な事実が判明した。
ダンジョンと化した勇者の墓には特殊な結界が展開されていて、一度に二人しか中へ入ることができないらしい。
なんでも、昔の人が考えた盗掘対策だとか。
二人に限定しても、盗掘される時はされると思うのだけど……
ちょっとズレた考えだなあ、と思う。
「どうしましょうか? ダンジョンに二人だけで挑むっていうのは不安だけど……」
「ですが、ここで引き下がるわけにはいきません」
アンジュはやる気たっぷりだ。
聖女になる使命というよりも……
より強くなることを求めているように見えた。
俺のため、と考えるのはおこがましいだろうか?
「いい、アンジュ? 絶対に無理はしちゃダメよ。危ないと思ったら、すぐに引き返すこと。わかった?」
「はい、約束します」
「うん、いい返事ね」
「あとは、人選ですね。アンジュさんは必須として、もう一人はいかがいたしましょう?」
「「「……」」」
みんなの視線が俺に集中した。
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