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236話 寄り道

 ガラガラガラと馬車の車輪が回る音が響く。

 時折、ガツンと石を弾く音。


 見上げると、青い空と白い雲。

 ほどよい具合に陽が出ていて、ぽかぽかしてて気持ちいい。


「良い旅日和だね」

「そうですね」


 アンジュと並んで座り、のんびりとそんなことを言う。


 馬車の旅は快適だ。

 シノが多めに旅費を出してくれたため、ワンランク上の馬車と契約することができた。


 おかげで揺れは最小限。

 観光旅行のような気分で、外の景色を楽しむことができていた。


「ハルさん、ハルさん」

「うん?」

「見てください。あそこに犬の家族がいますよ」

「あ、ホントだ」

「ふふ。子供も一緒でかわいいですね」

「見ていると自然と笑顔になっちゃうね」

「はい」

「……ハルさまと一緒にほのぼのするお嬢さま、とても尊いです」


 俺とアンジュは、こんな感じで過ごしていた。

 他のみんなはというと……


「すぅ……すぅ……」

「くぅ……くぅ……」


 アリスとクラウディアは、互いにもたれかかるようにして寝ていた。

 揺れの少ない馬車だからこそ、こうしてゆっくりと寝ることができるのだろう。


「うんうん、お前も苦労してるっすねー。でも、自分は認めるっすよ。お前は一流の馬っす! もっと誇りを持っていいっす!」


 サナは御者台に座り、馬と会話していた。

 本当に意思疎通ができているのかわからないけど、サナが語りかける度に馬が鳴いている。


 ちなみに、そんなサナを見て御者は軽く引いていた。


 時折、ガサゴソと馬車の天井から音が。

 荷台の上に乗っているシルファが体を動かしている音だ。


 ずっと座っているだけだと体が鈍ってしまう、とのことで、荷台の上で運動をしているらしい。

 うん。

 なぜそこを選んだ?


 馬車を壊すようなことはしないし、放り出されるような間抜けもしない。

 そう言っていた通り、時折、揺れる程度で特に問題はないのだけど……

 馬車の上でどんな運動をしているのか、非常に気になるところだ。


 そしてナインは、アンジュから一歩離れたところで待機している。

 直立不動だ。

 メイドたるもの、主と同じ席に座るわけにはいかない、とのことらしい。


 気にせず、座ればいいと思うんだけど……

 でも、馬車の揺れをまったく気にしておらず、ピクリとも動かないところがすごい。

 彼女の体幹はどうなっているんだろう?


「なにはともあれ、旅は順調っていうところかな?」


 学術都市を出て三日。

 今のところトラブルに巻き込まれることはなく、順調に行程を踏破していた。

 この調子なら、一日や二日くらい早く着くかもしれない。


「あぁ……平和っていいね」

「そうですねえ……」

「その平和をぶち壊しているのは、いつも師匠な気がするっす」


 御者台の方からそんな声が飛んできた。


「うるさいよ」

「自分、正直者として有名っす」


 ある意味、正解のような気がしたので、それ以上の反論はできない。

 うーん、俺は疫病神……?


 でも……


 そんな俺に、みんなは付き合ってくれている。

 恨み言なんて口にしないし、むしろ励ましてくれている。

 今のサナの言葉も、軽い冗談のようなものだ。


 改めてみんなに感謝を。


「……あっ」


 なにか思い出したという感じで、アンジュが小さく声をこぼした。


「どうしたの?」

「……いえ、なんでもありません」

「なんでもないようには見えないんだけど……

「え、えっと……」


 なぜか気まずそうだ。

 いたずらをした子供のよう。


 いったい、なにを隠しているのだろう?


「ねえ、アンジュ」

「は、はい」

「俺は、みんなに……アンジュにたくさん助けられてきた」

「それは、私の方で……」

「そんなことないよ。何度も何度も助けられてきた。だから、アンジュが困っているなら俺も力になりたい。なんとかしたい。そう思うんだ」

「……」

「だから、なにかあるなら遠慮なく言ってほしいかな」

「えっと……」


 迷うように視線を揺らして……

 ややあって、アンジュは小さな口を開いた。


「実は……」

「うん」

「この近くに、歴代勇者さまのお墓……巡礼の地があることを思い出しまして」


 思っていた以上に大変なことだった。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[気になる点] クラウディア、さも当然のように旅についてきてますけど 学術都市のことや魔法の勉強はいいのでしょうか?
2021/08/11 12:53 退会済み
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