235話 幾度目かの旅立ち
学術都市から武術都市までは、馬車で二週間ほどの距離だ。
そこまで遠くはないものの、それでもしっかりと準備をしないといけない。
まずは、馬車の手配。
それから食料と水をできる限り買い、積み込む。
あとは、なにかあった時のためにポーションや薬など。
あれこれと手配しなければいけないのは大変だったけれど、途中からシノが手伝ってくれたのでずいぶん楽ができた。
そのシノだけど、
「キミ達がいなくなると、学院にとって損失だからちょっと惜しいね」
なんてことを言っていた。
入学しておいて、一ヶ月ほどで他所へ行ってしまう。
うん。
確かに、どうかなー、と思えてきた。
でも、こちらにも譲れない事情があるわけで……
シノもそれはわかっているので、ちょっとしたからかいだったのだろう。
……そうであってほしい。
なにはともあれ、一週間ほどで準備が完了した。
――――――――――
「うーん、いざとなると寂しくなっちゃうねぇ……」
出発の日。
リリィが見送りに来てくれた。
シノはリリィに大量の仕事を押し付けられて、ひぃひぃと泣いているらしい。
鬼だろうか?
いや、悪魔だった。
「そう言ってくれるのはうれしいけど」
「せっかくだから、私も一緒についていこうかなぁ?」
「それはやめてあげて……」
リリィも学術都市の運営に関わっていたらしく……
彼女が不在の間、シノが二倍以上の仕事をこなして必死にがんばっていたらしい。
ようやくリリィが帰ってきたというのに、またどこかへ消えたりしたら、シノはたぶん本気で泣く。
あと、拗ねて怒る。
最終的に、リリィと同じようになにもかも放り出してしまうかもしれない。
学術都市が崩壊するかもしれない、わりと大変な話だった。
「うーん……残念。やめておこうか」
「それがいいと思うよ。本当に止めておいたほうがいいよ。本当に」
何度も釘を刺しておいた。
でないと、やっぱり……とか言い出しかねない。
短い付き合いだけど、なんとなくリリィの性格は把握した。
「はい、これ」
リリィから一通の手紙を預かった。
「これは?」
「武術都市の領主に渡して。そうしたら、色々とよくしてくれると思うから」
「……もしかして、武術都市の領主も魔人とか?」
「ううん、それはさすがにないよー。普通の人間」
「ほっ」
「ただ、以前、私が気まぐれに助けたことがあってねー。それ以来、色々とよくしてもらっているの」
「なるほど」
だとしたら、ありがたい話だ。
伝手があるのとないのとでは、活動の幅が違う。
最初から大きく広く活動できそうなので、こういうものは本当に助かる。
「ただ、彼女はちょっと……」
「彼女?」
武術都市の領主は、女性なのだろうか?
興味深い話だけど、リリィが微妙な顔をしているのが気になる。
性格に難があるとか?
あるいは、リリィのように放浪癖があるとか?
うーん……ちょっと嫌な予感がする。
こういう時の予感って、よく当たるんだよね。
でも、今更方針を変えることはできない。
なにかあるのだとしたら、それを真正面から打ち破ってみせよう。
それくらいしてみせないと、俺がやろうとしていることは到底達成できない。
「じゃあ、そろそろ行くよ」
「うん。一回り大きくなって、魔王さまらしくなることを期待しているねー」
「その激励の仕方はどうなのかな……まあいいや。じゃあ、また」
にっこりと手を振るリリィに見送られて、学術都市を後にした。
目指すは武術都市。
目的は、力を手に入れること。
この先、なにが待ち受けているのか?
それは誰にもわからない。
『面白かった』『続きが気になる』と思って頂けたなら、
ブックマークや☆評価をしていただけると、執筆の励みになります。
よろしくお願いします!




