234話 まずは力を
無事……と言っていいのかわからないけど、リリィとの同盟が締結された。
俺は魔王になる。
リリィは力と知恵を提供する。
ざっくり言うと、そんな内容だ。
ただ、一つ疑問がある。
魔王になるといっても、どうすればいいのだろう?
リリィの話によると、俺の中に魔王の因子が眠っている。
ただ、俺がそれを自由に扱うことはできない。
むしろ、魔王の因子が俺を好き勝手してしまう可能性が高いと言う。
そうなれば、俺という存在は消えてしまう。
後に残るのは、魔王の力だけ。
破壊を繰り返すだけの存在に成り下がってしまう。
それはリリィも望んでいない。
なので、力をつける必要があると言われた。
なら、どうして魔水晶を吸収させるようなことをしたのか? と思うのだけど……
それはリリィにとって賭けだったらしい。
たった一つの魔水晶を吸収したくらいで暴走するようならば、魔王の因子の侵食はかなり進んでいるということ。
その場合は手遅れなので、自分が因子を奪う。
そうでないのなら、様子見に切り替える。
……なかなかに怖いことを考えていた。
「そんなわけで、今度は武術都市を目指そうと思うんだ」
みんなに報告をして……
それから、次の方針を打ち出してみた。
「武術都市、っすか?」
「ここ学術都市が叡智が集められた場所なら、武術都市は力が集められた場所よ」
「道場が立ち並び、力自慢達が集まる闘技場があるらしいです」
「それだけではなくて、一流の武具が作られているそうですわ。中には、伝説の武器に匹敵する逸品もあるとか」
「へぇ、そうなんだ」
「……どうして、武術を扱うシルファさんが感心していますの?」
「ボクは我流だから、そういうのはよく知らないかな」
さらりと答えるシルファ。
それでいいのか? というような顔をするクラウディア。
なにはともあれ、状況の共有は完了。
これからのことについて話し合いたい。
「俺はまだまだ弱い。もっともっと強くならないといけない」
「ハルがまだまだ弱い、とか言っても……」
「ちょっと……いえ。かなり納得できませんわね」
「そこで反論されても……」
みんなは納得しないと言うが、しかし、実際に俺は弱い。
確かに、ある程度の魔力はあるかもしれない。
オリジナルの魔法の作成もできる。
ただ、それはあくまでも人間の常識と照らし合わせると、というだけ。
魔人と比べると……
世界規模で見ると、下の下もいいところだ。
だから、もっと強くならないといけない。
魔王の因子を完全に制御できるように、力をつけなくてはいけない。
「そのためにも、武術都市で鍛えたいんだ」
「なるほど……ハルさまの目的、目標は私達が予想しているよりも遥かに上。故に、さらなる力が必要というわけなのですね」
「うん、ナインの言う通り」
「そういうことならば、ハルさまがおっしゃる通り、武術都市を次の目的地とすることは最善の選択かと。あの都市ならば、さらなるレベルアップが期待できます」
ナインは賛成。
他のみんなはどうだろう?
「ハルがこれ以上強くなる……うーん、やらかした時の被害が怖いわね」
「でも、ハルさんなら、そのようなことは……」
「ないとは言い切れないっすねー」
「それなら、鍛えるついでに力を自覚してもらう、っていうのはどうっすか?」
「あら、それは素敵なアイディアですわ」
「この辺りで、いい加減、ハルのやらかしは矯正しないといけないと思うの」
「そういうことなら、アリなのかもしれませんね」
「えっと……みんな?」
バカにされているというか、からかわれているというか……
そんな風に聞こえるのは気のせいだよね?
……だよね?
「うん。あたし達は反対はしないわ」
「むしろ、賛成でしょうか?」
「改めて話を聞くと、とても良い案に思えてきましたわ」
「じゃあ、決まりということで」
どこか釈然としないものはあったものの、これからの方針が決まった。
次の目的地は、武術都市。
そこで己を鍛えることだ。
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