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233話 これが大前提

「あの子を……?」


 リリィが難しい顔に。

 そんなことは不可能だ、と言いたそうだ。


「そんなこと不可能なんだけどなあ」


 実際に言われてしまった。


 でも、わかりました、と諦めるわけにはいかない。

 魔人であるリリィが知らなくても。

 使徒であるシノが知らなくても。

 なにかしら方法があると信じたい。


 諦めてしまうことは簡単だ。

 逃げてしまうことは簡単だ。

 それが悪いとは言わないのだけど……


 でも俺は、抗うことができる。

 そのための力と知恵がある。

 なら、できる限りのことをするべきじゃないか?


 かつて、俺はレティシアから逃げた。

 無茶苦茶を繰り返す彼女に辟易して、放り出すことにした。


 そうすることで救われたと思っていたのだけど……

 でも、そんなことはなかった。

 そう錯覚していただけ。


 ふとしたことでレティシアのことを思い返して、気になる。

 なにをしているのか考えて、どうしてこんなことに? と考える。


 結局のところ、そういうことなのだ。

 俺とレティシアの縁は切れたようで、切れていない。

 今も大事な幼馴染なのだ。


 だから、助けたい。

 レティシアがなんて言おうと助けたい。

 周囲が無理と言おうと助けたい。


 そう。

 やりたいことをやろうじゃないか。

 俺は、わがままになろう。


「絶対に無理、って決まったわけじゃないんだよね? ありとあらゆる方法を試したわけじゃないんだよね?」

「うーん、それはそうなんだけど……」

「もしかしたら、リリィの知らない方法があるかもしれない。それとも、そんな方法はないと断言できる?」

「できないけど……」

「なら、可能性はあると思う。そのために協力してほしい」

「うーん」


 リリィがとても悩ましげな顔に。

 俺の無茶な要求を受け入れるかどうか、深く考えている様子だ。


 俺の要求を一蹴することなく考えるということは、ある程度の交渉の余地はあるはず。

 もう一押しすることができれば、こちらが望むほうに考えが傾いてくれるかも。


「リリィが俺に望むことは、魔王になって魔人を従えることなんだよね?」

「うん、そうだねぇー。今は主がいない状態で、みんな、やりたい放題だから」

「……ふと思うんだけど、それ、なにか悪いの?」


 人にとっては迷惑きわまりない話だけど……

 魔人からしたら、特に困った話ではないと思う。


 なにしろ、自由に好き勝手にやることができるのだ。

 リリィのような常識的な魔人はともかく、フラウロスとかマルファスのような魔人からしたら余計なお世話になると思うのだけど。


 そんな疑問を口にすると、リリィは眉を垂れ下げる。


「んー、確かに私達は強いけどね? 使徒っていう、強くて忠実な部下も作ることができる。でも、数はすごく少ないんだよねー」

「あ、そういう」


 リリィの言いたいことを理解した。


 いくら魔人や使徒が強くても、その数はとても少ない。

 未だ魔水晶のまま眠っている者もいるだろうし……

 人間と比べると、数は圧倒的な差がある。


 もしも魔人の存在が明らかになり、人間と対立することになれば?

 一時は優位に立つことができるかもしれないが……

 最終的には数に負けて、過去と同じ道を辿ることになるだろう。


 いかに強くても、数に勝つことは難しい。

 それは歴史が証明している。


「好き勝手する魔人を放置していたら、いずれその存在が公のものになる。そうなると……」

「待っているのは破滅だよねー」

「だから、俺になんとかしてほしい?」

「そういうことかな」


 「ただ」と間を挟み、リリィは言葉を続ける。


「それだけじゃないんだけどね」

「え?」

「魔人の本来の使命を果たすために、魔王は必須なんだよー」

「本来の使命……?」


 どういうことだろう?

 まだ俺の知らない、『なにか』が隠されているのだろうか。


 ただ、それを喋るつもりはないらしく、リリィはそこで言葉を止めてしまう。

 聞きたい気はしたのだけど……むう、残念。


「それで、返答は?」

「うーん」


 迷うリリィ。

 先の会話中に考えた、あと一押しを口にしてみる。


「もしも受けてくれるのなら、妖精の件は見なかったことにするよ」

「う……」


 たらりと、リリィが汗を流した。


「ダンジョンにいた妖精……リリィは知っていたよね? わりと困った性格をしているって、知っていたよね? それなのに俺達に伝えることなく、放置していたよね?」

「そ、それはぁ……」

「たぶん、俺達の力を測るとか、俺が魔水晶を吸収しやすい方向に持っていくとか、そういう意図があったんだろうけど……そういう隠し事はよくないよね?」

「うぅ……」

「受けてくれるなら、その問題はなかったことにしてもいいよ」

「で、でもそれだけで……釣り合いが……」

「あともう一つ」


 こちらが本命だ。


「魔人の結界を突破する方法を編み出した」

「え?」

「この技術が広まると、誰が困るかな? 魔人とか、すごく困るだろうね。そうなるとすごく大変そうだけど、うーん、どうなるかな? やってみようかな?」

「お、鬼だぁ……」


 脅すようなことをしてしまったのだけど……

 リリィも似たようなことをしているから、おあいこということで。


「……はぁ、わかったよ。絶対とは約束できないけど、できる限りのことはしてみるから」

「うん、よろしく」


 交渉成立と、僕とリリィは握手を交わした。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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