232話 決意と覚悟
翌日。
俺は一人でリリィの元を訪ねた。
みんなは一緒に、と言ってくれたのだけど……
いつも甘えてばかりはいられないので、俺一人で。
ただ、すでに決意は伝えている。
どんな選択を取るか、それも伝えている。
その上で、最終的に笑顔で送り出してくれた。
うん。
本当に、みんなと出会うことができてよかったと思う。
俺は一人じゃない。
そのことが力と勇気を与えてくれる。
「それで、答えは出たのかなー?」
シノの代わりに、理事長のイスに座るリリィは、笑みと共に問いかけてきた。
その隣に、どこかふてくされたようなシノの姿が。
もしかしたら、理事長のイスを奪われて拗ねているのかもしれない。
実際に理事長が交代したわけじゃないから、そこまで怒らなくてもいいのに。
意外と理事長職が気に入っていたのかな?
「うん、出たよ」
「おー。意外と早かったねー。実は、あと一ヶ月くらいは悩むかなー、って思っていたんだ」
「それは悩みすぎじゃないかな?」
「それくらい大きな問題だと思うよ?」
「言われてみると」
ついつい納得してしまう。
一見すると、リリィはのんびりしててなにも考えてないように見えるのだけど……
その口調で、相手の思考を自分の持っていきたい方向に誘導しているのかもしれないな。
なんとなく、そんなことを思った。
考えすぎかもしれないけど……
でも、相手は魔人。
気を許しすぎないようにしよう。
「それで、答えを聞かせてくれるかなー? 魔王になってくれる? 私達を導いてくれる?」
「いいよ」
「……」
「あれ、どうしたの?」
俺、ちゃんと言ったよな?
聞き逃した、とか?
「いいよ」
「……」
もう一度言うものの、やはり反応はない。
壊れた?
ついつい失礼なことを考えていると、リリィの隣のシノが口を開く。
「いやいやいや……キミ、あっさりとしすぎだろう? もっとこう、すごく悩むとかためらうとか、迷って迷ってその末に答えを出すとか……そういうものがあるんじゃないかい?」
「そんなことを言われても……」
シノが言うように、すごく悩んだ。
迷って迷って、さらに迷った。
その上で答えを出した。
「ここに来る時は、答えを出した時だよね? なら、今更迷うことも悩むこともないよ。俺はもう、覚悟を決めて決意を固めたんだから」
「……」
「だから、こう言うだけ。魔王になるよ、って」
「……ぷっ」
耐えられないという感じで、リリィが吹き出した。
キョトンとした顔から一転して笑顔になる。
「キミ、面白いねー。覚悟したからって、普通はもうちょっと迷うと思うんだけど」
「そうかな?」
「そうだよー。ふふ、さすが未来の魔王さま、っていうところかな? うんうん、これなら頼りがいがあるなー」
「そうだろうか……? 逆に不安なのだけど……」
シノはうさんくさいものを見るような目をこちらに向けていた。
失礼な。
頼まれた通りに魔王になると決意したのに、その反応はどうだろうか。
「ただし」
俺は人差し指を立てる。
「一つ、条件がある」
「ふむ」
言ってみて、という感じでリリィが目で促してきた。
一蹴しないところを見ると、ある程度のことなら対応してくれるのかもしれない。
「レティシアを元に戻すための協力をしてほしい」
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