226話 意外? な才能
「う、あぁ……」
魔物に睨みつけられたハルは、恐怖のあまり尻もちをついて、動けなくなっていた。
大人達は、村の外に出るな、と口を酸っぱくして言う。
その意味を、ハルはようやく理解した。
まさか、魔物がこんなにも恐ろしいなんて。
血走った目。
歪に並んだ牙。
自分は、ここで食べられてしまうのだろう。
命の覚悟をするのだけど……
「ハル、危ない!」
小さな影がハルの前に割り込んだ。
それは、レティシアだった。
料理に使う鉄のおたまを手にして、怯むことなく、魔物と対峙する。
「ハルを食べさせたりなんてしないわよ!」
「れ、レティシア……」
「さあ、かかってきなさい!」
無茶な話だった。
素材が鉄とはいえ、所詮は料理器具。
まだ太い木の枝の方が攻撃力がある。
魔物は、低級のウルフ。
大人にとっては大したことのない相手ではあるが、子供には脅威以外の何物でもない。
普通に考えて、二人は魔物のエサになってしまうだろう。
多少の抵抗はできたとしても、そのまま牙を突き立てられてしまうだろう。
しかし……
「えいっ!」
「ギャン?!」
ウルフの突撃に合わせて、レティシアはおたまを横に振る。
偶然か意図的なものなのか。
おたまの湾曲した部分が、ちょうどいい具合にウルフの眼球を叩いた。
これにはたまらず、ウルフは悲鳴をあげて後ずさる。
「れ、レティシア……」
「ハル、立てる? っていうか、どうして村の外に?」
「綺麗な花が咲いている、っていう話を聞いて、レティシアに……」
「ああもうっ、そういう理由じゃ怒れないじゃない!」
レティシアは、怒りながらもうれしそうだった。
難儀な性格をした少女だった。
「とにかく、ここは私がなんとかするから、ハルは逃げなさい。あと、村の大人を呼んできて」
「……そ、そんなことはできないよ」
ハルは震えながらも立ち上がり、近くの木の棒を手に取る。
魔物は怖い。
しかし、レティシアが傷つく方がもっと怖い。
ここで戦わず、いつ戦うというのか?
ハルはレティシアの隣に並び、覚悟を決める。
「もう……なんだかんだで、ハルは男の子なのね」
「ど、どういう意味……?」
「とても頼りになる、っていうことよ」
レティシアが不敵に笑う。
ハルも、小さく笑う。
「せっかくだから、この魔物、倒しちゃうわよ。今夜の夕食にするわ!」
「ま、魔物は食べられないと思うんだけど……」
「冗談よ、察して」
「レティシアは、本気なのか冗談なのか、よくわからないんだよね……」
「なによ、それ」
「と、とにかく、がんばろう!」
レティシアが頬を膨らませるのを見て、ハルは慌てて話題を逸らした。
そして、二人は協力してウルフに挑む。
――――――――――
結論から言うと、ハルとレティシアはウルフを討伐することに成功した。
ただ、さすがに無傷というわけにはいかず、重傷ではないものの、あちらこちらに怪我を負った。
おまけに、最後は武器を放り出しての殴り合いだったため、あちらこちらが泥まみれ。
そんな状態で帰れば、大人達を驚かせるには十分だった。
まずは、怪我の治療。
それから、風呂で汚れを落とす。
最後に、説教大会。
親だけではなくて、親戚を始め、村の長までもが説教に参加して、二人はこってりと絞られた。
一時間に渡る説教が行われて……
そして、二人には一週間の外出禁止令が出された。
仕方ないと、反省するハル。
おとなしくすると、レティシアも反省……するフリをした。
「……」
レティシアは、自分の家の自分の部屋で、己の手を見ていた。
少し前……この手で、魔物と戦った。
その時の高揚感が忘れられない。
というよりは、使命感だろうか?
ハルを守るためなら、なんでもできるような気がした。
そんな強い意思。
「私……なにがしたいか、なにになりたいか。わかったかも」
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