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224話 大丈夫だから

 部屋に戻り、一人になる。

 アンジュやクラウディアに散歩に誘われたのだけど、それは断った。


「……悪いことをしたかな」


 申しわけないと思うのだけど……

 ただ、どうしてもレティシアのことを考えてしまい、落ち着くことができない。


「はぁ……みんなに迷惑をかけて、俺、勝手しているな」


 情けない。

 なんとかしたい。


 でも、どうにもできない。


 今更ながらに思う。

 俺にとって、レティシアはかなり大きい存在だったんだな。

 こうして、色々な意味で悩まされて、考えさせられてしまう。


「どうにかしないといけないんだけど……レティシアの言うことを聞くか、聞かないか、決めないといけないんだけど……」


 考えれば考えるほど、答えが遠ざかっていくような気がした。


 レティシアが暴君だった頃、あれこれと命令されて従うのが当たり前になっていたというのもあるのだけど……

 でも、それだけじゃなくて、俺にとってレティシアは指標のような存在だった。


 小さい頃……いつも一緒にいた。

 レティシアは、ちょっとやんちゃでわがままだけど、でも、とてもまっすぐな性格をしていた。

 そんな彼女の言葉なら間違いはないと、小さい俺は信じていて……

 たぶん、今もその影響が残っているのだと思う。


「縁を断ったつもりで、でも、実は俺の方にも未練があって……ホント、どうすればいいんだろう?」


 情けないと、再びため息をこぼした。


「ハル、いる?」


 ふと、コンコンと扉がノックされた。

 アリスだ。


「どうぞ」

「お邪魔します」


 アリスは部屋に入ると、俺に小さく笑いかける。


「隣、いい?」

「え? あ……うん」


 アリスと並んでベッドの座る。


「……」

「……」


 さっきの話をするのかな? と思っていたのだけど、そんなことはなくて。

 特になにをするわけでもなく、隣にいてくれた。


 ちょっと驚いた。

 アリスの反応もそうだけど……

 でも、それ以上に、こうして道に迷っている時、誰かが傍にいてくれることで、こんなにも優しい気持ちになれるなんて。


 ついつい、アリスに甘えたくなってしまう。

 たぶん、アリスもそのつもりでやってきたのだろう。


 でも、本当にそれでいいのか……

 みんなに、アリスに甘えすぎていないだろうか?


 もちろん、まったく頼りにしない、なんていうのはダメだと思う。

 それは、みんなの気持ちを無視する、どうしようもなくダメな行為だ。

 でも、いつでもどこでも頼りにして、甘えて……

 そんなことをしていたら、成長できないような気がする。

 そもそも俺は……


 あー……なんかもう、どんどん混乱してきた。

 気持ちが、心がぐちゃぐちゃになってしまう。


「ハル」

「わっ!?」


 突然、アリスが俺をぐいっと自分のところに引き寄せた。

 そのまま、アリスは俺の頭を胸に抱く。


 柔らかい感触とか、良い匂いとか……あわわわっ。


「あ、アリス!?」

「大丈夫だから」

「……アリス?」

「詳細は知らないけどね。わからないから気になるけど、でも、ハルは秘密にしたいみたいだから、なにも聞かない」

「……」

「でも、無理をすることはないし、あたし達がいる、ってことを覚えておいて。あ、ハルのことだから、一人で解決するべきとか考えているかもしれないけど、そういうのはダメ。どうしようもない時こそ、頼りにしてほしいの。だって……あたしは、ハルのパートナーなんだから」


 そこで、アリスがにっこりと笑った。

 優しくて、温かくて、見ているだけで幸せになるような、そんな笑みだ。


 そっか……そういうことか。

 なんとなくだけど、アリスが言いたいことがわかったような気がした。


 俺は……一人じゃない。


「……あのさ、アリス」

「なに?」

「ちょっと、昔話を聞いてもらってもいいかな?」

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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