222話 今更の話
「ねえ、レティシア」
「なに?」
「色々と聞きたいことが……あと、確認したこともたくさん」
「それは、私が魔人になっていること?」
「……うん、そうだね」
どうして、そんなことになっているのか?
俺にきつく当たっていた時は、その影響なのか?
今後、どうするつもりなのか?
色々な質問が思い浮かび、でも、どれから尋ねていいか迷い、言葉にできない。
そんな俺を見て、レティシアがくすりと小さく笑う。
「ちょっと見ないうちにたくましくなったと思ったんだけど、優柔不断なところは完全に直ったわけじゃないのね」
「うっ……め、面目ない」
「いいわ。その方が、ハルらしいもの」
「それ、どういうらしさなの……? 喜んでいいのかな……?」
「ふふっ、どうかしら」
レティシアは、秘密というように唇に人差し指を当てた。
俺をからかう時、よくやる仕草だ。
それがとても懐かしくて……
なんだか、とてもうれしくて……
また泣いてしまいそうになる。
とはいえ、レティシアを困らせてばかりというのはダメだ。
我慢して、話を続ける。
「それで、レティシアのことなんだけど……」
「ちょっと待って」
「え?」
「本当は、私も色々と話をしたいところなんだけど、あまり時間がないの。というか、時間があるかどうか、よくわからないの」
「それは、どういう……?」
「私は、まだ完全に私を取り戻したわけじゃないわ」
つまり……
また、以前の暴君に戻ってしまう可能性がある、と?
せっかく、元に戻ったと思ったのに。
なんて、落胆しているヒマはない。
というか、都合の良い話か。
俺は、まだなにもしていない。
それなのに、勝手に元に戻ることを期待しているなんて……
それじゃあダメだ。
俺がどうにかしないと、ダメなんだ。
「だから、詳しく説明している時間はないの。わかる?」
「うん、了解」
「そうやって、私の言うことをすぐに信じるところも……ううん、これも雑談か」
レティシアは、懐かしい笑みを見せて……
それから、すぐに表情を引き締める。
「簡単に言うと、私は悪魔の封印に失敗して、逆に取り憑かれた。それで、魔人になったの。で、ハルを魔王として覚醒させたくないから、あれこれと束縛して……ごめんなさい」
「ううん、いいよ。それよりも、わざわざ俺の前にやってきたっていうことは、伝えたいことがあるんじゃあ?」
「ハル……魔王なんかになろうとしないで」
ものすごく真剣な顔で。
とてもまっすぐな声で。
レティシアは、そう告げてきた。
「あんなものになったら、ハルは死んじゃう。消えちゃう」
「それは……」
「だから、絶対にダメ!」
「……」
「これ以上は、なにもしないで。戦おうとしないで。故郷に……私達の街へ戻って、そこで穏やかに暮らして。そうすれば、後は私がなんとかするから」
「でも、それは……」
「いい! これは命令よ!」
ビシッと、レティシアは指を突きつけてきた。
こういうところは、今も昔も、暴君だった頃も変わらない。
なにか問題がある時。
困っている時。
レティシアは、事を強引に進めようとする。
「約束したからね!?」
「え? いや、俺は……」
「じゃあ……また、今度」
「あ……」
まだ俺の話は終わっていない。
言いたいことを言えていない。
そう反論しようとしたのだけど、それよりも先に、レティシアが俺を抱きしめた。
俺の温もりを確かめるように、強く強く抱きしめた。
そして、ゆっくりと離れる。
「またね」
もう一度、別れの言葉を口にしてレティシアは、どこかへ消えた。
いや。
あるいはそれは、再会の約束だったのかもしれない。
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