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220話 邂逅

「ふぁ……」


 食事中。

 ついつい、大きなあくびがこぼれてしまう。


「師匠、寝たりないっすか?」

「それとも、夜ふかし? ハルは悪い子だね」

「んー……ちょっと考え事をしてて」


 適当に答えつつ、パンをかじる。


 アリスの告白について考えて……

 気がつけば、寝るのがかなり遅くなってしまった。


 それだけ考えたのだけど、やっぱり答えは出ない。

 アリスは気にしないと言ってくれていたけど……

 そういうわけにもいかないよな。


「……でも、どうすればいいのかな?」

「ハルさん、どうしたのですか?」

「え?」

「難しい顔をしていますが、なにか悩み事が……?」


 アンジュが心配そうにこちらを見る。

 クラウディアもそれに続く。


「わたくし達でよろしければ、相談に乗りますわ。解決できるかどうか、それは断言できないのですが……」

「誰かに話をすることで、心が楽になることもあるでしょう。ハルさま。どうか、お一人で抱え込まないよう」


 ナインも心配してくれた。


 心配をかけてしまうことは申しわけないのだけど……

 みんなの優しさが伝わってきて、うれしいって思う。


 とはいえ、相談は無理なんだよね。

 アリスに告白されました、なんてこと言えるわけがない。


「えっと……今後について考えていたら、ちょっと寝るのが遅くなって」


 そう、話をすり替えておいた。


 今後のことを考えていたのは本当なので……

 とりあえず、ウソは言っていない。


「……ハルさんは、魔王になるのですか?」


 ここが、他にも学生がいる食堂ということを考慮した様子で、アンジュが小声で尋ねてきた。

 その質問に対して、俺は首を傾げることしかできない。


「よくわからないよ……突然のことで、どうしたらいいのか、っていうのが正直なところ」

「即断る、という選択はないのですね」

「そこなんだよね……」


 クラウディアが指摘したように、今のところ、俺の中で即断るという選択肢はない。


 リリィからまだ、全ての話を聞いていないし……

 あと、俺が魔王にならないと、色々とまずいことになりそうだ。


 それを見て見ぬ振りをして、何事もなかったかのように生活することは難しい。

 基本、俺は小心者だ。

 俺のせいでなにか起きてしまう、なんてことを聞かされて、聞かなかったことにして無視できるほど図太い神経はしていない。


 とはいえ、魔王なんて不穏なものにならないといけないなんて……

 うーん、そうそう簡単に決心できることじゃない。


「ふう……」


 魔王のこと。

 アリスのこと。

 そして、これから表に出てくるであろう、色々な問題なこと。


「人生のターニングポイントって、今なのかな……?」


 ふと、そんなことを思った。




――――――――――




 リリィの目的について話してもらわないことには、今後、どうするか決めることはできない。

 ただ、今は準備が整っていないらしく、話はまた今度と言われてしまった。


 準備って、なんのことだろう?

 疑問に思うものの、たぶん、急かしても無駄だろう。

 リリィはマイペースに見えたから、のんびりと準備を進めるだけ……だと思う。


 一日か二日か。

 ちょうどいい具合に考える時間ができた。


「もっとも、アリスのことまでプラスされるなんて、想定外なんだけどね……」


 自分で蓋を開けたとはいえ、まさか、告白されてしまうなんて。


 いや、まあ。

 思い返せば、それらしい兆候はいくつかあったような気がする。


 ただ、俺は、全部それに目をつむっていて、気づかないフリをしていて……


「はあ……ダメダメだ。自分のダメさ加減に、ホント、嫌になってくるよ」


 これは、なかなかに凹む。

 気分転換に散歩をしているのだけど、気分は一向に晴れない。


「どうにかして落ち着かないといけないんだけど、うーん、どうしよう?」

「……それなら、私が気分転換に付き合ってあげましょうか?」

「え?」


 聞き慣れた声。

 たぶん、ずっとずっと、一番多く聞いてきた声。


 振り返ると……


 彼女は、いつものように不敵な笑みを浮かべて。

 偉そうに胸を張り。

 意味もなく、自信たっぷりに堂々としていた。


「……レティシア……」

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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