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219話 とても単純なこと

「なんで、って言われても……」


 アリスが困った顔に。


 アリスは良い人だ。

 特に深い理由はなく、当たり前のように困った人に手を差し伸べることができるのだろう。


 ただ……


 そういう性格だということを考慮しても、俺に対しては、あれこれと世話を焼いてくれているような気がした。

 初めて出会った時から、今に至るまで。

 優しいというだけでは納得できないような、そんな感じを覚えた。


「なにか理由があるのなら、それはそれでいいんだ。アリスにはアリスの事情があるだろうから。ただ、できるなら聞いておきたいかな、って」

「……聞いてどうするの? あたしのことが信じられない?」

「アリスのことは信じているよ。うん、それは絶対」


 アリスがなにか企んでいるとか、そんなことは欠片も考えていない。

 俺に優しくするのに理由があるとしても、それは悪いことじゃないはず。


 断言できる。


 ただ、話したくないことを無理に聞くつもりはない。

 人間、どれだけ親しくても、隠しておきたいことの一つや二つ、あるものだ。


「うーん……隠しているわけじゃないし、ハルに話せないっていうわけでもないの」

「そうなの?」

「ただ、ハルが理由を知ったら、困るかな……って」

「困る?」


 なんでだろう?

 理由を考えてみるものの、思い浮かばない。


「それでも聞きたい?」

「うん、聞きたい」


 迷いはない。


 ここまで、アリスは俺のことを支えてくれた。

 感謝しかない。

 そんなアリスのことを、今以上に、もっともっと知りたいと思ったのだ。


 ふと、湧き出てきた感情だけど……

 たぶん、それは間違いじゃない。


「そっか……うん、わかったわ。なら、理由を言うわね」

「ありがとう」

「あたしが、ハルに対して優しいのは……」


 アリスは、わずかに視線を逸らして……

 ほんのりと頬を染めつつ、言う。


「……好きだから」


 ぽつりと、ささやくような言葉。


 でも、確かに。

 ハッキリと聞こえた。


「……え?」

「だから……ハルのことが好きなのよ」

「えっと……それは、恋愛的な意味で?」

「他にどういう意味があるの?」

「……ないよね」

「つまり、そういうこと。ハルのことが好きだから、あれこれと力になりたいの。好きな男の人のために、色々とがんばりたいの。あたしも、一応、乙女なんだからね?」


 アリスがジト目でこちらを見る。

 その目は、よくも告白させたな? というような感じで、責めているような気がした。


 いや。

 実際、責めているのかも。


 俺は、アリスの気持ちに気づくことなくて……

 彼女の口から、想いを言葉にさせてしまって……


 やばい。

 傍から見れば、俺、かなりのダメ男では……?


「アリスは……どうして、俺なんかを……?」

「そうね……優しいとか、いざという時はかっこいいとか、理由は色々とあるんだけど……」

「だけど……?」

「一番は、誰かを笑顔にできる、っていうところかしら」


 そう言って、アリスは笑顔になってみせた。


「笑顔に……?」

「自覚していないかもしれないけど、ハルは、たくさんの人を笑顔にしてきたの。アンジュにナイン。サナにシルファ。クラウディア……それと、あたし」

「そんなことは……それに、俺、アリスには助けられてばかりなんだけど」

「ううん。あたしが、ハルに助けられているの」


 そう言うアリスの声には、深い情感が込められていた。

 心なしか、瞳が潤んでいる。


 アリスは、そっと己の胸元に手をやる。

 その奥の熱い気持ちを確かめるように。


「だから……あたしは、ハルが好きよ。好きだから、なんでもしてあげたいの」

「……アリス……」


 思いもしらない答えに、情けない話だけど混乱してしまう。


 俺なんて、という意識が根底にあり、未だ完全に取り除かれていないから……

 だから、誰かに告白されるなんて想像をしたことがなかった。

 仲は良いと思っていても、好意ではなくて愛情だなんて思いもよらなかった。


 だけど……


 それは、俺の想像不足か。

 認識が甘く、考えが足りなかった。


「俺は……」


 アリスのことをどう思っている?

 どんな風に想っている?


 自問して、考えてみる。

 考えて、考えて、考えて……

 しかし、答えが出ない。


 もどかしく、悔しく、情けない。


 そんな俺を見て、アリスは気にしないでというように首を横に振る。


「大丈夫。今すぐにハルの返事が欲しいわけじゃないから」

「でも、それじゃあ……」

「いいの」

「……」

「ハルが大変な時に、告白なんてしようと思っていなかったから。だから、返事がもらえないことは本当に気にしていないの」

「う……でも、俺が話を振ったからだよね。ごめん」

「もう、本当に気にしていないのに」

「ふぁっ」


 アリスは少し唇を尖らせて、こちらの頬をつまむ。

 そして、ぐにぐにと遊んだ後、ぱっと手を離した。


「はい、これで罰代わり、っていうことで」

「……いいの?」

「いいの」


 アリスは笑い……

 そして、俺を抱きしめた。


「あと、これはおまけ」

「あ……」

「というわけで、この話はおしまい。ハルのこと、レティシアのこと、全部片付いたら……その時は、改めて、あたしから話をさせてね?」

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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