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212話 妖精は純真というわけではないようだ

 ルミエラを問い詰めたら、私がファントムを操っていましたと白状した。


 最初はしらばっくれていたものの……

 ルミエラの前で魔法を使ってみせたり、サナが炎を吐いてみせたり、シルファが石を握りつぶしたり。

 そんなことをしたら、顔を青くして、裏で動いていたことを告白してくれた。


 脅した?

 ファントムをけしかけてくるような相手に、遠慮はいらないと思う。

 直接、手を出していないから、最低限のラインは守っているつもりだ。


 で……


 同じく、裏で企んでいたと思われるアリエイルを呼んできてもらった。


「「うぅ……」」


 俺達の前に、ルミエラと……ついでに、アリエイルが床に正座をしていた。

 その前では、どこから取り出したのか、短い鞭を手にしたサナが。


 これまた、どこから取り出したのか黒いサングラスと黒い服を見につけていた。

 ギロリと、サングラスの隙間から正座する二人を睨みつける。


「あー……やってくれたっすねえ。自分らを騙そうとするなんて、いい度胸っす、あぁん? この落とし前、どうつけてくれるっすか?」

「「ひぃ!?」」

「ひぃ、じゃわからねーっすよ。ちゃんと、自分らにわかるように説明してくれないっすかねぇ。でないと、自分、なにするかわからないっすよ?」

「「ガクガクブルブル」」

「だから、わからねーっすよ! 自分、気が短いことで有名なんすよねぇ……この前、買い物をした時、会計で五分も待たされて……ふひひ、キレちまったっすよ」

「「あうあうあう」」

「でも、そんな自分よりも、師匠の方が怖いっすよ? なにしろ、あだ名が狂犬っすからねぇ。見境なしに噛み付いて、肉を食いちぎり、狙った獲物は絶対に逃さない。自分もブルっちまうくらいやばい人であいたぁっ!?」


 街のチンピラになりきるサナの頭を、パコンとはたいた。


 一応、加減はしているから、痛くはないと思うのだけど……

 突然のことに驚いたらしく、サナは、ちょっと涙目になって振り返る。


「師匠、なにするっすか!?」

「途中から俺の悪口になっていたから」

「違うっす、あれは悪口じゃないっす。怖い自分よりも、さらに師匠の方が恐ろしいぞ、って脅しをかけていたっす」

「まあ、わからないでもないけどね」


 脅し文句というのは、レティシアと一緒にいる時、色々と覚えた。

 普段の彼女は、まあ……色々とアレだったから、脅し文句が日常会話だったんだよね。


「脅す必要はあるけど、サナは、脅してばかりで話が進んでないよ。というか、脅すことを楽しんでいたでしょう?」

「ぎくっ」

「わかりやすい反応、ありがとう。ここからは、俺が担当するよ」


 バトンタッチ。

 しゃがんで、ルミエラとアリエイルと目線を合わせる。


 まずは、しっかりと話をしたい。

 見下ろしてしまうと、どうしても上から目線になりがちで、心を開いてくれるのは難しい。

 なので、子供にするように、まずは目線を合わせることにした。


「なんで、こんなことをしたの?」

「「……」」

「理由があるなら、ちゃんと教えてほしい」

「「……」」

「理由があって仕方なくこんなことをしたのなら、なにか協力できるかもしれない」

「「……」


 三つ目の言葉に反応して、ルミエラとアリエイルは互いの顔を見た。

 そして……ニヤリ、と腹黒そうな笑みを浮かべる。


 うん。

 それだけで、なにを考えているかわかってしまったよ。


「実は、私達は……」

「裏に悪いやつがいて、ソイツに脅されていて、仕方なくこんなことをしていた……とか?」

「ど、どうして私の台詞を先取りするのよ!?」


 ルミエラが驚いているのだけど……

 それは、本気だろうか?

 あんな腹黒い笑みを見せられたら、ウソで乗り切ろうとしています、と自白しているようなもの。


 この二人、自分がどんな顔をしているか、自覚がまったくないらしい。


「はあ……」


 立ち上がり、ため息をこぼす。


 できることなら、今の話を信じたいのだけど……

 二人の態度を見る限り、どう考えてもウソ。


 目的は、よくわからないのだけど……

 悪意を持って、ファントムをけしかけてきたと考えるのが妥当だろう。


 細部は異なるが、魔法学院に向かう途中で立ち寄った村と似ている。

 たまたま訪れた人を利用して、自分達の欲望を満たす。


 まさか、妖精がそんなことをするなんて。

 清らかな存在というイメージが強かったから、最初は、まったく疑っていなかった。


「どうも、悪意があるのは確定みたいね」


 困った様子で、アリスが声をかけてきた。

 どうするべきか?

 彼女も悩んでいるのだろう。


「断言はできないけど……ファントムをけしかけることで、あたし達の荷物とかを奪おうとしていた? そんなところかしら」

「人間の荷物なんて興味ないのよ、ほしいのは魔力なのよ!」

「へぇ」

「あ」


 ついつい反射的に、という感じでルミエラが言い……

 怒るような感じで、アリスの目が細くなる。


「なるほど、なるほど。そんなことを企んでいたのね」

「えっと、今のは、その、あの……」

「妖精は魔力を餌にするらしいから、なるほど。ハルから魔力を奪うことができれば、当分は、ごはんに困らないわね」

「ひぃ……こ、この人間、さっきのドラゴンよりも怖いのよ」

「お、恐ろしいです……笑っているのにまったく笑っていません」


 アリスって、怒ると怖そうだよね。


 それにしても……

 妖精達の処遇はどうしよう?


 全員を逮捕、裁判にかける……なんていうのは無理。

 どれだけの妖精がいるかわからないし、そもそも、人間の法が妖精に適用できるかどうか不明だ。


 妖精の悪事を見抜いたのだから、このまま放置する?

 でも、他の人が被害に遭うかもしれない。


 と、なると……

 ここで全滅させておくか?


「……え?」


 今、なにを考えていた……?

 自分で自分の考えに戦慄した。


 確かに、妖精は悪いことをしているのだけど……

 だからといって、問答無用で全滅させてしまうなんて。

 そんなことを考えてしまうなんて。


「これは……魔王の影響、なのか?」


 ……答えをくれる人はいない。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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