208話 妖精の真実
「まったく、大失態なのよ」
ダンジョンの最下層。
そこにルミエラの姿があった。
拘束されているわけではなくて。
かといって、傷つけられているわけでもない。
完全に自由。
なにもない様子で、しかし、苦々しい表情をしていた。
「まさか、本当にファントムを倒してしまうなんて、予想外もいいところなのよ。これじゃあ、主さまからの大目玉が確定なのよ」
ルミエラが考えていた本当の計画は、こうだ。
実のところ、妖精とファントムは敵対していない。
むしろ、共生関係にある。
たまにダンジョンにやってくる人間の前に現れて、適当なことを言う。
襲われているから助けてほしい。
財宝があるけど、魔物が邪魔をして手に入れることができない。
そんな話を信じた人間を誘い込み、ファントムのところへ連れて行く。
ファントムが人間を倒して、その持ち物を奪い、さらに魔力も全部吸い取る。
それが、当初、考えていたルミエラの計画だ。
「ルミエラ」
「ひゃっ!?」
ふと、アリエイルが現れた。
笑顔を浮かべているものの、圧がすごい。
「聞きましたよ、失敗したそうですねー」
「うっ、いえ、その……」
ごまかすか? とぼけるか?
ルミエラは考えて……
「ごめんなさいなのよ!」
素直に謝ることにした。
こう見えて、怒ったアリエイルは怖いのだ。
魔物と手を組み、人間を騙して持ち物や魔力を奪い取ってしまおうという計画を立てるくらい、怖いのだ。
「で、でも、まさか本当にファントムを倒してしまうなんて、驚きなのよ。そんなこと、ありえるわけがないって思っていたのよ……」
「まあ、確かにそうですねー」
ファントムの正体は、妖精が作り出した守護者だ。
高い魔力を持つ妖精だからこそできる芸当。
野良でファントムを見かけることがあるのは、製作者の妖精が他所へ移り放置したか、あるいは、ルミエラ達と同じように罠を仕掛けているのだろう。
基本的に、妖精は性悪なのだ。
希少種であることは間違いないが……
しかし、それ故に正しい情報が人間側に伝わることはなくて、なぜか、清廉潔白というイメージがついている。
本当は、人間を騙し、なにもかも根こそぎ奪うという、盗賊よりも厄介な存在だったりする。
正しい情報を知る者は、妖精の言うことは全部ウソだと思え、と言う。
「ファントムは一体、失ったけど、咄嗟に逃げることができたのを褒めてほしいのよ。たぶん、怪しまれていないとも思うのよ」
「そうですねー……それなら、まだ挽回できそうですね」
「そうなのよ、そうなのよ」
アリエイルの怒りが少し収まり、ルミエラはほっとした顔になる。
「ファントムを使って、というのは、考え直した方がいいかもしれませんねー。ファントムは、人間を誘い出すというよりは、私達妖精族の守護が本来の目的ですからねー」
「とか言って、ファントムを悪役にして騙しましょう、とか言ったのはアリエイルさまなのよ」
「なにか?」
「なにも!」
笑っていない笑顔を向けられて、ルミエラはブルブルと震えた。
「でも、困りましたねー。ファントムが倒されてしまうのは、本当に予想外でした。あれ一体作るのに、どれだけの魔力が必要なことか」
「いいかしら?」
「はい、どうぞ」
「私の勘としては、あの連中にはちょっかいは出さない方がいいのよ」
「あら、どうして?」
「だから、勘なのよ。なんていうか……やばい匂いがするわ。ファントムを、わりとあっさりと倒しちゃうし……あの人間の男が特にやばいのよ。具体的なことは言えないのだけど、一緒にいると、たまにゾクゾクってなるのよ」
「却下」
「一瞬!?」
「ルミエラの意見を無視するわけじゃないのよー? ただ、あの人間の男は相当な魔力を持っていたわ。奪い取ることができれば、私達、しばらくごはんには困らないわよ?」
「それは、まあ……」
「だから、がんばってちょうだい」
「丸投げ!?」
「ふふ、冗談ですよー」
ルミエラは心の中で、アリエイルさまならやりかねないのよ、と冷や汗を流した。
「んー……では、こういうのはどうでしょうか?」
「ふむふむ、なるほど」
ダンジョンの最下層で、二人は悪巧みを始めた。
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