207話 もう一体
「ハルさん」
「うん」
クラウディアが手を上げる。
勝利のお約束。
俺は、笑顔でハイタッチを交わした。
「クラウディアの魔法、ずいぶんと形になってきたね」
「そうでしょうか? わたくしとしては、まだまだだと思ってはいるのですが……ですが、ハルさんにそう言っていただけると、とてもうれしいですわ」
「そう?」
「だって、ハルさんはわたくしの師匠のようなものではありませんか」
「あれ、いつの間にそんなことに」
ただの友達的なポジションだと思っていたのだけど……
気がつけば、話が大きなことに?
「ハルさんの使う魔法はどれも強力で、それでいて独創的ですわ。そんなハルさんに教えてもらった魔法なのですから、失敗するわけにはいきませんし……実のところ、少し苦労いたしました」
「そっか。でも、クラウディアなら絶対に成功すると思っていたよ」
「それは、なぜ?」
「クラウディアは、努力の人だからね」
「……」
「長い間、コツコツと積み重ねることができるっていうのは、誰にでもできることじゃないよ。その努力は、一種の才能だと思う。だから、その努力は絶対に報われると……成功すると思っていたんだ」
「……そういう台詞は、わたくしに対しては殺し文句ですわ」
「殺し……?」
「ふふ、なんでもありません」
なぜか、クラウディアの機嫌がよくなる。
なんだろう?
不思議に思い、問いかけようとして……
しかし、その時、悲鳴が響く。
「きゃあ!?」
慌てて振り返ると、ファントムに掴まれたルミエラの姿が。
まだ生きていた!?
いや……そんなはずはない。
あの時、確かに決定的なダメージを与えたという手応えがあった。
なら、どういうことだ?
どうして、まだファントムが生きている?
あの魔人でさえ、死ぬ時は死ぬ。
不死身というわけではないはず。
なら……
「もう一体いたのか!?」
そんなこと聞いていない、反則だ。
なんて愚痴を心の中でこぼすものの、そんなことをしていても現実は変わらない。
ルミエラは人質にされてしまい、迂闊に動くことができない。
こちらが警戒しているように、向こうも俺達を警戒しているのだろう。
絶対無敵のはずが、仲間がやられたからな。
そう簡単に動くことができないのは、もう一体のファントムも同じ。
「……」
「……」
にらみ合い、膠着状態に陥ってしまう。
「今は……一度……」
うん?
今、ルミエラがなにか言ったような……
しかし、俺を含めて、みんな聞き取れなかったらしい。
誰もなにも反応しない。
そうこうしている間に、ルミエラを捕らえたファントムはゆっくりと後退して……
そのまま転移魔法陣に乗り、どこかへ消えてしまう。
「逃がすか!」
急いで後を追いかけるが……
一度使用したら、しばらくは使えないタイプの転移魔法陣だったらしく、後を追いかけることができない。
まんまとしてやられた。
まさか、ファントムが二体もいるなんて……
「ど、どうしましょう……? ルミエラさんは、大丈夫でしょうか?」
「アンジュ、落ち着いて。人質にしていたから、すぐに危害を加えられることはないと思うわ」
「でもでも、放っておいたら、その危害を加えられるってことっすよね?」
「あぁ、ルミエラさん……」
「あたしが落ち着かせようとしているのに、余計なことを言わないでくれるかしら?」
「ひぃっ!? アリスがめっちゃ怖いっす!」
普通に考えて、大失態なのだけど……
でも……うーん。
なにか引っかかるな?
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