203話 できる人の説明能力はアレ
あれから、言葉を重ねることで誤解は解けて……
なんとか、ルミエラとアリエイルに信じてもらうことができた。
まあ……あながち、誤解っていうわけじゃないんだけどね、はは……
いや、いつまでも引きずっていても仕方ない。
今は気持ちを切り替えよう。
とにかくも、誤解は解けて、協定を結ぶことができた。
ファントムを討伐する。
その代わりに、妖精達は俺達に協力をしてもらう。
「でも、ファントムの討伐なんて、とんでもなく難しいと思うわ。いくらハルでも……えっと……もしかしたら、やってのけちゃう?」
「あはは。信頼してもらえている、って受け止めておくよ」
「ハルさんならば、と思いますが……ですが、まだ未完成なんですよね?」
「そうだね。だから、まずはここで練習をしようと思う」
やってきた場所は、妖精の里の訓練場。
妖精達は、いざという時に備えて、日頃から魔法の腕を磨いているらしい。
それでも、ファントム相手に手が出なかったのだけど。
「ここは結界が展開されているから、好きにするといいのよ」
ここまで案内してくれたルミエラが、そんなことを言う。
しかし、すぐに迷うような顔に。
「あ、いや……本当に空間を切り裂くのだとしたら、結界も意味ないのよ? んー……やっぱり、好きにやったらいけないのよ」
「結局、どうすれば?」
「コレを使うといいかしら」
ルミエラは指をパチンと鳴らした。
すると、巨大な影が現れる。
見た目は騎士のような姿だ。
ただ、全身が黒く、顔はない。
剣も鎧も黒一色で塗りつぶされていて、さながら、影の騎士というところか。
「私達は、コレを練習相手にしているのよ。攻撃はしてこないけど、防御はするわ。しかも、ひたすらに硬い。回避もするわ。練習相手には、もってこいじゃないかしら?」
「へー」
自律するなんて、いったい、どんな原理なのだろう?
これは、妖精特有の魔法なのかな?
気になり、じーっと影の騎士を見る。
「こーら、ハル。興味があるのはわかったけど、今は、解明は後回し。いつファントムが襲来するかわからないんだから、練習を先にしないと」
「そうだね、ごめん」
「最近の師匠、魔法のことになると、ちょっと変わるっすね」
「賢者だから興味あるみたいだね」
サナとシルファがそんなことを言うのだけど、自覚はなかった。
俺、ちょっとずつ変わっているのかな?
「とりあえず、俺だけじゃなくて、みんなにも覚えてもらいたいんだけど」
「「「えっ」」」
「大丈夫。コツを掴むのはちょっと大変かもしれないけど、そこをクリアーすれば、そこまで難しい魔法じゃないから」
「ハルの難しいは……」
「失礼ですが、あまりアテになりませんね」
アリスとナインにひどいことを言われた。
「いやいや、本当に大丈夫だから。必要な魔力量は計算しているし、工程もそんなに複雑じゃない……はず」
「最後の間はなんでしょうか?」
「自信がなくなったのではないかと」
「ハル……?」
「ホント、本当に大丈夫だから!」
信頼されているようで、妙なところで信頼されていない。
なんというジレンマ。
「まあ……とりあえず、やれるだけやってみましょうか。あたしは……どうなるのかしら? 精霊を使役できるようになったけど、この子と関係ある?」
「アリスも使えると思うよ。精霊を使役する感覚で、魔法を剣に宿すといいと思う」
「では、私も大丈夫でしょうか?」
「そこまで難しくないというのならば、私も挑んでみようと思います」
「わたくしならば、すぐに習得してみせますわ!」
アンジュ、ナイン、クラウディアも参加してくれて……
「自分は、人間の魔法は使えないっす。基礎も知らないっすからね」
「シルファは格闘専門。魔法は、専門外」
サナとシルファは、今回は見送ることに。
「うん、了解。ただ、見学はしておいて」
「どうして?」
「今のところ、魔人への攻撃手段は空間をいじること以外、見つかっていないからね。魔法を使わないにしても、空間に干渉する方法は覚えておいてほしいんだ」
「そのために見学して、自分なりにヒントを掴んでほしい、ってことっすね?」
「そういうこと」
「おー」
なぜか、シルファが感心したような顔に。
サナも不思議に思ったらしく、小首を傾げる。
「シルファ、どうしたっすか?」
「サナがハルの話を理解できるのが、ちょっと……いや、少し……いや、それなりに……いや、かなり意外で」
「何度も言い直す必要あったっすかねえ!?」
「ごめんごめん」
シルファはいつも通り無表情なので、本気で悪いと思っているのかどうか、そこは不明だ。
ただ、サナには失礼なのだけど、ちょっとシルファの言うことも納得できてしまった。
だって……普段の言動が、ねえ。
「でも……サナ、これはチャンス」
「……なにがっすか?」
「……空間系の攻撃を習得したら、レベルアップ。強くなれる」
「……自分達の目的が、こんなところで叶う、ってことっすね!?」
「……そういうこと」
なにやら、内緒話をしているのだけど……
サナの声がやたら大きいため、大体の会話は聞こえていた。
二人共、レベルアップすることを目標としているみたいだけど……
でも、その理由まではわからない。
「ハル、そろそろ練習を始めましょう」
「あ、うん」
サナ達のことはひとまず置いておいて、アリス達のところへ。
「えー……それじゃあ、今から空間に干渉する方法を教えます」
パチパチパチ、と拍手が飛ぶ。
ちょっと照れくさい。
「ただ、俺も方法を完全に確立させたわけじゃないから、ちょっと曖昧になるのは勘弁してほしいかな。教えつつ、俺も教えられて……一緒に勉強していけたら、って思う」
「はい、わかりました」
「魔法に関することなら、わたくしもいくらか力になれると思いますわ」
「うん、それじゃあ……」
さっそく、講義を開始する。
「空間に干渉するには、まず、魔力をこう、がーっと集めておくこと。ぐわってしないで、ほわーっていう感じ」
「え?」
「で、その状態を維持しつつ、対象の空間をむーっとするんだ。それから、ふわふわしてくるはずだから、そこで一気にどわー! っていう感じ」
「……」
「最後に微調整しつつ、くぬぬぬって耐えながら、すぱーん、ってやる感じ。基本的な説明はこんなところだけど……どうかな? わかった?」
「「「わかるかっ!!!」」」
「えぇ」
みんなに強烈なツッコミを入れられてしまう。
どうして……?
「ハルって、アレなのね……魔力もあって、賢者だから魔法の才能もある。でも……」
「天才故に、説明がこう……とても独特なのですね」
「「はぁ」」
アリスとクラウディアは、同時にため息をこぼした。
その隣で、アンジュが苦笑するのだった。
……なんで?
『面白かった』『続きが気になる』と思って頂けたなら、
ブックマークや☆評価をしていただけると、執筆の励みになります。
よろしくお願いします!




