202話 人間なのかしら?
「ハル……それは、どういうこと?」
みんなを代表するかのように、アリスが俺の言葉の意味を尋ねてくる。
とはいえ、それほど難しいことを話したわけじゃない。
「どういうことも、そのままの意味だけど」
「そう言われても……」
「どうやっても突破することができない結界が展開されている。なら、その結界を無視した攻撃をすればいいんじゃないかな、って思ったんだ」
どうやって結界を無視すればいいのか、そこは悩みどころだったのだけど……
ある時、ふと思ったんだ。
空間ごと切断してしまえば、もしかしたらいけるんじゃないかな? って。
で、こっそりと練習を重ねて……
マルファス戦で試したところ、それなりの成果を叩き出すことができた、というわけだ。
「完璧っていうわけじゃないから、まだまだ改良は必要なんだけどね」
「十分な気がするけど……」
「空間を操作してしまうなんて、そのような魔法、聞いたことありませんわ……」
「ハルさんといると、常識がおかしくなりそうです……」
みんな、呆れているような感じで、とても驚いていた。
いや。
妙な表現というのはわかっているのだけど……
でも、それ以外に思い浮かばないんだよね。
「……」
ふと、ルミエラとアリエイルがじっとこちらを見ていることに気がついた。
みんなのように驚いているわけでもなく、呆れているわけでもない。
その瞳に宿る感情は……警戒。
「ど、どうしたの?」
「あなた……本当に人間なのかしら?」
「え?」
「空間に手を加えることができる人間なんて、聞いたことがないのよ」
「そう言われても……」
できたのだから仕方ないのでは?
なんて呑気なことを考えるのだけど……
二人の様子を見ていると、そんな簡単な話では済まされないみたいだ。
どうして、そんなことを可能にしたのか?
その根拠を知りたいらしいけど……
でも、どうしてそこまで警戒しているのだろう?
「あのー、いいっすか?」
ふと、サナが手を上げる。
「空間に手を加える魔法なら、すでにあるじゃないっすか。転移陣とか」
「あ、そうだね」
「それなのに、師匠が別のものを開発したらまずいっすか?」
「空間に手を加えているから気になるのよ」
「そもそも、その転移陣の基礎を開発したのは、人間じゃなくて魔人ですからねー」
「「「えっ!?」」」
予想外の事実を告げられて、俺を含めて、みんなで驚きの声をあげる。
今日は、何度、驚けばいいのだろう……?
「詳細は私達も知らないのだけど……転移陣は、魔人が開発したものなのよ」
「今、人間が使っている転移陣は、魔人が開発したものを参考にして作られたものですねー」
「だから気になるのよ。魔人以外に、空間に干渉できたなんて話は聞いたことないのよ。あなた……魔人じゃないの?」
「うっ」
思わず言葉に詰まってしまう。
俺は魔人ではないのだけど……
その上位存在である『魔王』らしいから、あながち、妖精二人の言うことも間違いではない。
「ハルは、魔人じゃないよ。ちょっとおかしいけど」
「そうっす、師匠は魔人なんかじゃないっす。ちょっとおかしいっすけど」
「シルファとサナは、フォローしてくれているの? それとも、けなしているの?」
ものすごく判断に迷う台詞だ。
「ちょっと、ルミエラ。それにアリエイルさんも、変なこと言わないでちょうだい。ハルが魔人のわけないでしょう?」
「そうです、ハルさんは普通の……普通……えっと……とにかく人間です!」
そこで迷ったりしなければ、良い台詞なんだけど……
アンジュも、みんなに毒されてきているような気がした。
「……」
でも……そっか。
俺は、実は魔人と同じような存在で……
そして、そのことはみんなに隠している。
巻き込みたくない、なんてまともな理由じゃない。
怖いからだ。
実は、俺が人間じゃないと知られたら?
ひどいことをした魔人と似た存在と知られたら?
みんなの俺を見る目が変わるかもしれない。
蔑み、恐れ、忌避するかもしれない。
そう考えると、怖い。
とても怖くて、どうしても話すことができなかった。
みんながそんなことをするわけがないって、そう思うのだけど……
でも、話すことはできない。
結局のところ、みんなを信じることができないのだ。
それなのに、俺はみんなを頼りにして……
俺の都合でみんなを振り回して……
こんなことでいいのだろうか?
一緒にいていいのだろうか?
「ハル?」
「え?」
「どうかしたの、顔色が悪いわよ? もしかして、二人の話を真に受けちゃった?」
「……いや、なんでもないよ」
結局、本当のことを話すことはできなくて……
逃げるようにごまかしてしまうのだった。
俺……最低だな。
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