20話 最悪のタイミングで
「調子に乗ってすみませんでした」
「えっと……」
ドラゴンが頭を下げていた。
俺、夢でも見ているのかな……?
そんなことをついつい思ってしまうのだけど、夢なんていうことはない。
「自分、実は普通のドラゴンっす……ちょっと魔法耐性が高いだけで、特になんてことないドラゴンっす……それでも人間は怯えたりするから、ちょっと調子に乗って……脅かしたりしてました。すみませんでした」
「えっと……俺は気にしてないけど」
ちらりと、アリスたちを見る。
みんなもどう対応していいかわからない様子で、苦笑していた。
「みんなも気にしてないって。だから、頭を上げなよ」
「おぉ……なんて懐が深いっす。あれだけの力を持つのに、決して増長することはない。ドラゴンでも、あなたみたいな人はなかなかいないっす。名前も聞いてもいいっすか?」
「ハルだよ。ハル・トレイター」
「自分は、サナっす」
人っぽい名前だ。
名前をつける感覚は、人もドラゴンも変わらないのかな?
「自分、決めたっす!」
「え? なにを?」
「師匠! 自分を弟子にしてくださいっす!」
「えぇ!?」
突然の展開に驚きを隠せない。
ドラゴンに弟子入り希望されるなんて……
さすがに、これは異常だよな?
「「「……」」」
みんなも唖然としていた。
よし、これは異常なことみたいだ。
よかった。
「えっと……なんで、弟子入り?」
「自分は、自分が恥ずかしいっす……人間を相手に偉そうにして、増長していたっす。でも、師匠は違うっす。自分に対しても怯むことなく、全力で向かってきたっす。その姿勢に感動したっす」
「そんなことを言われても……俺、弟子を取れるような立場じゃないんだけど」
大した力は……いや、まあ、あるのかもしれない。
こうしてドラゴンとの力勝負に勝つのだから、それなりのものはあると誇っていいのだろう。
レティシアに散々こき下ろされてきたため、自信を持つことはできなかったが……
こうして冒険を重ねることで、その棘も少しずつ抜けてきたような気がする。
ただ、弟子を取れるような立場でないことは強く主張させてもらう。
使える魔法は四種類。
戦闘技術はなし。
そんな人が、ものを教えるなんてことはできない。
そう伝えるのだけど、
「自分は、師匠の傍でその心意気を学びたいっす! 力とか、そういうものはどうでもいいです。心の強さを教えてくださいっす!」
「そう言われても……」
困った。
弟子なんて取る気はない。
でも、そうそう簡単に引き下がってくれない雰囲気だ。
「えっと……ほら、俺は人間であなたはドラゴン。一緒に過ごすのは、色々と不都合があるだろう?」
「サイズの問題っすか? なら、大丈夫っす!」
「え?」
サナは伏せていた頭を上げて、一歩、後ろに下がる。
そして、気合を入れるように両手を上げると、
「せいっ!」
光に包まれた。
ややあって、視界が戻ると……一人の女の子が。
「これなら、問題ないっすよね!?」
「……サナ、なのか?」
「はい、サナっす! 魔法で変身したっす! これなら一緒にいられます!」
ドラゴンって、なんでもありなんだな。
「えっと……」
どうしよう?
断る理由がなくなってしまった。
師匠とかそんな器じゃないから、なんて言っても納得してくれないだろうし……
なんかとにかくイヤ、というのはちょっとひどい気がする。
どうしたらいいんだ?
助けを求めてアリスを見るのだけど、
「……がんばって」
「アリス!?」
目をそらされた。
面倒だから、サナのことは俺に任せた、というような感じだ。
「師匠、お願いするっす! 自分を弟子にしてくださいっす!」
「そんなことを言われても……」
「なんでもするっす! だから、弟子にっ!」
「いや、だから……」
「本当になんでもするっすよ? 師匠が望むなら、えっちなことをしてもいいっす!」
「ちょ……!?」
「自分の体に魅力は感じないかもしれないっすけど、でもでも、精一杯、奉仕するっす! どんな変態プレイでも受け入れるっす! もういっそのこと、自分を奴隷にしてくださいっす! お願いするっす、ご主人さま!」
サナが真顔でとんでもないことを言い放った時。
こつりと、後ろで石を踏む音がした。
振り返ると……
「ハルぅ? なぁあああにをしているのかしらぁ……?」
レティシアがいた。




