198話 妖精
妖精というのは、精霊の親戚のようなものだ。
共に、自然を愛する心を持つ。
そして神秘的な存在で、なかなか人前に姿を表すことはない。
その生態の七割は謎に包まれている。
どのような文化を築いているのか?
どのような思考を持つのか?
色々と研究はされているものの、わからないことの方が多い。
確かなことと言えば、妖精を怒らせてはいけない、ということだ。
見た目は愛らしく、ともすれば芸術品にも見える。
また、妖精だけしか持っていない秘宝もあるという。
そのため、一時期は妖精狩りが行われたものの……
その全員が悲惨な最後を迎えた。
事故に遭う。
病に倒れる。
行方不明になる。
そんなことばかりが続いて……
いつしか、妖精に手を出してはいけない、と言われるようになった。
事実、それらは妖精の仕業だった。
妖精は好戦的ではなくて、穏やかな種族だ。
ただ、火の粉が降りかかるのならば全力で振り払う。
見た目に反して、かなり強い力を持つ種族だったのだ。
ただ、敵にすれば怖いというだけで、味方にすると非常に頼りになる。
その不思議な力でサポートをしてくれたり。
あるいは、常識に反するような秘宝をくれたり。
「そんな妖精が、俺達に頼みたいこと……?」
いったい、どんなことなのだろう?
ひとまず、話は聞いてみるものの……
うーん、厄介ごとの予感。
「助けてほしい、っていうのはどういうこと?」
「私達は、このダンジョンで暮らしているのかしら」
「へえ……妖精は、図書館ダンジョンで暮らしているんだ」
「勘違いしないでほしいのよ。全ての妖精がダンジョンで暮らしているわけじゃなくて、私達のグループは、このダンジョンを家にしているだけ。他のグループはダンジョンじゃなくて、色々なところを家にしているのよ」
「なるほど」
妖精は珍しいものの、人前に姿を見せないだけで、個体数が少ないわけじゃない。
ルミエラが言うように、世界のあちらこちらに居を構えているのだろう。
ルミエラの場合は、それが、たまたま図書館ダンジョンだったというわけか。
「まずは、私達の集落に来てほしいのかしら。そこで詳しいことを話すのよ」
「今は話せないの?」
「詳しいことを知っているのが長なのよ」
「うーん」
予想外に時間をとられてしまうかもしれない。
とはいえ、ここで立ち去るというのは無情な気が……
「ダメなのかしら?」
「どれだけ時間がかかるかわからないのが、ちょっとネックかな。俺達も、のんびり寄り道できるわけじゃないし」
「ハル達は、なにを目指しているのかしら?」
「このダンジョンの踏破……かな」
「なら、協力できるのよ」
「え?」
思わぬ言葉に、ついつい目を丸くしてしまう。
他のみんなも、どういうことかとルミエラに視線を集中させていた。
「私達は、このダンジョンを家としているのよ。この層だけじゃなくて、あちらこちらに移動できるの」
「それはもしかして……」
「移動には転移陣を使用しているのよ。最深部は無理だけど、三十層くらいまではすぐに行けるのよ」
もしもその話が本当なら。
そして、その転移陣を使わせてもらえるのなら、なんてありがたい。
一気に三十層に行けるなんて、かなりのショートカットだ。
少しくらい寄り道をしても問題はないし、かなりのお釣りがくる。
とはいえ、これは妖精が協力してくれる、という前提の上の話だ。
妖精達が協力してくれなかったり……
あるいは、妖精の依頼を失敗してしまったら、転移陣は使わせてもらえないだろう。
そうなると、寄り道をするだけ時間の無駄。
「うーん」
悩んで、考えて。
一分ほど頭を回転させてから答えを出す。
「わかった、ルミエラの集落にお邪魔させてもらうよ」
振り返り、みんなを見る。
「ということにしたいんだけど……いいかな?」
「ええ、もちろん」
「私達は、ハルさんについていくだけです」
アリスとアンジュを始め、みんな笑顔で了承してくれた。
本当に優しい。
誰かが一緒にいてくれる。
一人じゃない。
それは、とてもうれしいことなんだな。
ふと、そんなことを思った。
「それじゃあ、案内してくれる?」
「任せるのよ」
こうして、僕達は妖精の集落に寄り道することになった。
『面白かった』『続きが気になる』と思って頂けたなら、
ブックマークや☆評価をしていただけると、執筆の励みになります。
よろしくお願いします!




