表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

198/547

197話 ダンジョンの住人

「……なんだろう、あれ?」


 ソレは、物陰に隠れて、そっとこちらの様子をうかがっていた。


 見た目は子供。

 でも、サイズがとても小さい。

 手の平よりも少し大きいくらい?


 それと、背中に羽が生えていた。

 薄く半透明で、それでいて淡く輝いている。

 蝶の羽みたいでとても綺麗だ。


 見たことがない不思議な生き物で……

 それでいて綺麗なものだから、ついついじっと見てしまう。


 じーっと、互いの視線と視線がぶつかる。


「ハル、どうしたの?」

「アリス……うん、そこによくわからないけど綺麗な小さな人が」

「小さな人?」


 アリスは俺の視線を追いかけて……

 そして、驚きに目を大きくする。


「うそっ、まさか妖精……?」

「妖精って……もしかして、おとぎ話の?」

「妖精はきちんと存在するわ。もっとも、希少種な上にすごく警戒心が強いから、人の前に姿を見せるなんてことはないはずなんだけど……」


 不思議そうに言いつつ、アリスは改めて小さな女の子……妖精を見る。

 それから目をこする。

 幻覚ではないか? と考えているみたいだ。


 でも、妖精は消えることはない。

 あいかわらず、じっとこちらを見つめていた。


「……」

「……」


 しばしのにらめっこ。

 それでも、妖精は立ち去ろうとしない。


 すごく警戒心が強いっていうアリスの話、本当なのかな?

 アリスを疑うわけじゃないんだけど、こうも堂々とされると、なにかの間違いでは? と思えてきてしまう。


「ねえ」

「っ!?」


 おもいきって話しかけてみると、妖精はビクリと震えた。

 でも、それだけ。

 やっぱり逃げようとしない。


 刺激を与えないように気をつけつつ、そっと近づいてみる。


「……」


 あと一歩の距離まで近づいた。

 妖精はおどおどとしているものの、それでも立ち去らない。

 じっとこちらを見上げていた。


 もしかして、なにか用があるのかな?


「ねえ」

「……」

「勘違いだったらごめんだけど、俺達になにか用が?」

「……うん、そうなのよ」


 鈴が鳴るような綺麗な声だった。


「あなた達は人間ね?」

「そうだよ」

「このダンジョンに挑むということは、それなりの力があるのよね?」

「……たぶん?」

「なんで、自信なさげなのかしら?」

「俺は、まだまだ力が足りない、って思っているから」

「ふむ……謙虚なところは好ましいのよ。合格点をあげるわ」

「どうも?」

「この妖精、ナチュラルに上から目線ね……」


 とはいえ、悪い人ではないと思う。


 今まで出会った悪い人というのは、言葉にどこか棘があった。

 でも、この妖精は特にそんなものはない。

 ただ単に、そういう性格なのだろう。


「ちょっとお願いしたいことがあるのよ」

「うーん、そう言われても……」


 アリスが苦い顔になる。


 俺達はダンジョン攻略の途中。

 日帰りではなくて、一週間の予定。


 途中で寄り道をしたら、食料や水が足りなくなるかもしれない。

 余分に持ってきているし、最悪、現地調達でもいいのだけど……

 避けられるリスクがあるのなら避けるべきだ。


 でも……


「アリス、まずは話を聞いてみようよ」

「ハル?」

「それからみんなに相談。なにも聞かないで断るのは、どうなのかな……って思うんだけど」

「やれやれ……ハルってば、お人好しなんだから」


 なんて言いつつも、


「でも、ハルらしいわ」


 アリスは笑っていた。




――――――――――




 その後……


 みんなに事情を話して集合。

 改めて、妖精の話を聞くことに。


「時間を作ってもらったこと、感謝するのよ」

「ホントっすよ。自分、これから昼寝する予定だったんだから、めっちゃ感謝してほしいっす」

「サナは、もうちょっと緊張感とか色々と持った方がいいと思うな。シルファはそう思うよ」

「シルファさまに同意です」

「シルファだけじゃなくて、ナインまで!?」


 サナが、ガーンとショックを受けたような顔に。


 そんなサナを見て、妖精はわずかに警戒を解いた。

 サナがドラゴンと聞いて警戒していたみたいだけど……

 その性格を知り、そんなに怖い相手じゃないのかな? と思ったみたいだ。


「まずは、自己紹介をするわね。私は、ルミエラ。見ての通り妖精なのよ」

「俺は、ハル・トレイター。それで……」


 みんな、自己紹介をする。

 それから、ここに来た目的……はさすがに話すことができないので、ダンジョン攻略という形でぼかしておいた。


「なるほど、なるほど。やっぱり、ダンジョン攻略の途中なのね。一攫千金が目的かしら?」

「うーん、まあ、そんなところかな?」

「自分は、修行も兼ねているっす!」

「そうなのね。ここは鍛錬にはぴったりのダンジョンだから、そういう目的で訪れる人がいてもおかしくはないのよ……訪れる竜?」


 少し話が逸れていたので、軌道修正を図る。


「それで、ルミエラは俺達になにか用があるんだよね?」

「そうなのよ。お願いしたいことがあるのよ」


 ルミエラはふわりと舞い上がり、羽を輝かせつつ、


「私達妖精を助けてくれないかしら?」


 そんなことを口にするのだった。

『面白かった』『続きが気になる』と思って頂けたなら、

ブックマークや☆評価をしていただけると、執筆の励みになります。

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ