196話 レストエリア
図書館ダンジョンは厄介なところなのだけど……
ただ、二度目の攻略だ。
深部ならともかく、上層で苦戦することはない。
上層に出現する魔物の対策については、前回の探索で身を持って学習した。
イレギュラーがない限りは、遅れを取ることはないはず。
トラップについても、同じく学習した。
発見、解除は可能。
なので、特に問題なし。
「ぎゃー!? 逆さ吊りに……ししょー、助けてくださいっす!?」
……訂正。
たまに、トラップだとわかっていてもサナが突撃する。
まあ、上層のトラップはそれほど深刻なものじゃないから、まだ大丈夫。
うん、なんとかなる。
自分に言い聞かせるようにしつつ、そのまま奥へ進んでいく。
――――――――――
どんなダンジョンにも、レストエリアというものが存在する。
魔物が出現することはなく、トラップも配置されていない。
文字通り、休憩するための場所。
どうしてそんなところがあるか?
それはよくわかっていないのだけど……
ダンジョンを構成する魔力が行き届かないところがあって、そこがレストエリアになっているのだとか、そんな説がある。
とにかくも、俺達は6層にあるレストエリアに到着した。
「うん、順調ね」
「初日で6層……予定より一つ多いから、確かに順調だね」
「もう少しがんばってみる、ということはしないんですか? 時間的には、まだ余裕はあると思いますが……」
「そうね、そうしたいところではあったんだけど……」
アリスの視線が、ちらりとサナに向けられる。
呆れている様子だ。
「ひぃ、はぁ、ひぃ……やばいっす、自分、ダンジョンを舐めていたっす」
サナは未だに肩で息をして、疲れ切っていた。
なぜ、こんなことになっているのか?
答えは簡単。
「まさか、ほぼほぼ全部の罠にサナが引っかかるなんて……」
「まあ、予想外だよね」
サナは全てのトラップを全力で踏み抜いていた。
発動したトラップはパーティーを巻き込むものではなくて、個人を狙い撃ちするものだったのは幸運と呼ぶべきか。
ドラゴンであるサナを傷つけられるようなトラップなんて、ほぼほぼ存在しない。
故に、サナは傷つくことはなかったのだけど……
ただ疲労は溜まったらしく、このような状態になってしまった。
「サナ、お荷物?」
「うぐっ」
「ダメですよ、シルファさま。そのようなストレートな言葉は、時に刃となります」
「ストレート!?」
「あなた、本当にドラゴンなのですか? わたくし、ドラゴンはもっと知的な存在とイメージしていたのですが」
「失礼っすね!?」
いじられ放題のサナだった。
ただ、トラップを全部踏み抜いたという負い目があるらしく、反論の言葉に力がない。
「まあまあ」
みんなも、本気でサナが悪いって思っているわけじゃないだろう。
ただ単にからかっているだけ。
それでも、さすがにかわいそうになってきたので間に入る。
「サナも悪気があってしたわけじゃないし」
「うぅ……」
「それに逆に言うと、サナがトラップを全部踏み抜いてくれたおかげで、俺達は無事に進むことができたわけだからさ。あまり強く言うのはやめようよ」
「し、し……ししょぉおおおおおお!!!」
「うわっ」
サナは滝のような涙を流しつつ、勢いよく抱きついてきた。
突然のことに対応できず、押し倒されてしまう。
「師匠! 自分は、一生師匠についていくっす!」
「いや、えっと、そこまでしなくても……」
「師匠ぉおおおおお!!!」
「というか、ちょっと離れて……サナ?」
サナはドラゴンだけど、でも、女の子。
こんな風に抱きつかれたら、色々と困ることに。
「……ハルさんは、サナさんの味方なのですね。甘いですわ、ふんっ」
「なんかモヤモヤする。ハルは、しばらくそうしていたらいいと思うよ」
「え? え? クラウディア、シルファ?」
なぜか、二人に見捨てられてしまい、
「ハルさまは、もう少し、女心を学ぶべきです」
ナインに、そんなことを言われてしまうのだった。
――――――――――
そんなこんなありつつ、レストエリアで休憩の準備をする。
今日はここで一泊。
明日から、また攻略再開だ。
魔物が出ないエリアでも、野宿をするつもりはない。
魔物が出ないからこそ、ゆっくりと休めるようにテントを組み立てていく。
「ハルさん、上手なのですね。わたくしは、あまりテントを組み立てたことがないため、どうにも苦手でして……」
「なら、後でやり方を教えるよ。こういうのはなれているから」
レティシアがひどかった頃……
「ハル、無能のあんたでもできるような仕事、与えてあげる。それは、テントの設営よ! これくらいは、いくら無能でもできるわよね? わよね!?」
なんてことを言われていたので、テントの組み立て方はマスターした。
種類問わず、短時間で組み立てることができる。
「どうすればよろしいのですか?」
「えっと、基本的に説明書の通りに。で、コツとしては……」
「なるほど」
クラウディアに教えつつ、テントを組み立てていき……
「……うん?」
ふと、視界の端にそれは映った。
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