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195話 いつの間にか

 35階層に及ぶ、巨大な図書館ダンジョンの攻略。

 その攻略予定日数は、一週間前後。


 これだけの規模のダンジョンに挑むのは初めて……

 というか、ダンジョンの攻略自体、そんなに経験がない。


 レティシアがおかしかった頃は……以下略。


 ダンジョン攻略初心者が、いきなり図書館ダンジョンなんて難易度の高いものへ挑んでいいのだろうか?

 そんな不安はあるものの、でも、みんながいればなんとかなる。

 一人じゃなんともならないだろうけど、みんながいれば大丈夫。


 そんな自信があった。


 そして、準備に三日をかけて……

 しっかりと体制を整えた後、図書館ダンジョンに改めて挑むことに。


「おー、あっちこっちに本棚が浮いてて、すごい場所っすね」

「なんで、サナは初めて見たような感想を口にするのかしら……?」

「サナはそういうものだからね、仕方ないよ」


 呆れるアリスに、シルファがわりと辛辣なことを言う。


 まあ……それだけ心を許しているのだろう。

 そういうことにしておこう。


「それじゃあ、攻略を始めようか。一週間くらいかかるっていう話だから、けっこう大変なことになると思うけど……でも、俺達ならやってやれないことはないと思うんだ。だから、がんばっていこう!」

「「「おー!!!」」」


 士気は十分。

 さあ、攻略を始めよう!


「では、上層については、わたくしが案内させていただきますわ」

「あれ? 道がわかるの?」

「はい。学院長からマップをいただいたので」


 そんなものがあるなら、前回やってきた時も欲しかった。


「わたくし達が改めて図書館ダンジョンに挑むと知って、急遽、調べてくれたらしく……学院長も意地悪をしたわけではないと……思いますわ?」


 クラウディアもいまいち自信がないらしく、最後はちょっと疑問形だった。


 シノって、不真面目とまでは言わないけど、どこか適当なところがあるからね。

 忘れていた、なんて言われたら納得してしまいそうだ。


「とりあえず、シノを信じようか」

「そうね。ポカはやらかしていないと信じましょう」

「まあ、なにかしらやらかしているような気はしますわ」

「えっと……みなさんのシノさんに対する評価って……」


 アンジュが苦笑いしていた。

 ただ、シノを擁護しないところを見ると、口にしないだけで似たようなことを考えているのだろう。


「みなさま、雑談はそこまでにいたしましょう。敵です」


 最初に反応したのはナインだ。

 スカートの下に忍ばせている双剣を素早く抜いて、構える。


 その鋭い視線の先に、骨でできた魔物……スケルトンが。

 一体ではなくて、数え切れないほどの数が押し寄せてきた。

 まるでスケルトンの津波だ。


「これは、まともに相手をしていられないわね」

「近接戦なんてしたら、あっという間に飲み込まれてしまうでしょう」

「ハルさん、ここは魔法で……」

「そういうことなら、わたくしにおまかせくださいな!」


 自信たっぷりに、クラウディアが前に出た。


 両手を前に構えて、魔力を練り上げていく。


 スケルトンの群れが到達するのが先か?

 それとも、クラウディアの準備が整うのが先か?


 答えは……後者だった。


「エアロデトネーション!」


 クラウディアの中級風魔法が炸裂した。

 風が渦を巻いて刃と化す。

 荒れ狂う自然の暴力はスケルトンの群れを飲み込み、その全てを砕いた。


 圧倒的な威力。

 クラウディアは、魔法学院の生徒会長を務めるほどの実力者で、この結果は当たり前。

 スケルトン程度に苦戦するわけがないのだけど……


「おー、すごいね。クラウディアって、こんなに強かったんだ」

「なかなかっすね。師匠ほどじゃないっすけど、ちょっとは見直してもいいっすよ?」


 シルファとサナは、とことん上から目線だった。


 いや、まあ……

 二人に悪気はないんだろうけどね。


 ただ、どちらも規格外の存在だから、自然とそうなってしまうだけで……


「ふふんっ、わたくしにかかれば、こんなものですわ!」


 気を悪くしていないかな? とクラウディアを見ると、ごきげんな様子だった。

 褒められた、と解釈したらしい。


 うーん、すごくポジティブ。


「では、先へ進みましょう」

「うん、そうだね」


 クラウディアがとても頼もしい。

 彼女がパーティーに参加してくれたことで、また一つ、上のランクに達したような気がした。


 って……あれ、待てよ?


「ねえ、クラウディア」

「はい、なんですの?」

「気がつけば一緒に行動をしているんだけど……よかったの?」

「え?」

「いや、だから……いつの間にか、俺達と一緒に行動することが当たり前になっているんだけど、それはよかったの?」


 これからは一緒にいこう……とか。

 そういうことは確認していなかったような?


 いやまあ。

 ここ最近、ずっと一緒に行動していたせいか、クラウディアがいるのが当たり前になっていて、改めて確認することはなかったんだけど。


「……ハルさんは、わたくしが一緒だと問題がありますの?」

「まさか。むしろ、一緒にいてほしいよ」


 即答した。


「クラウディアは、色々なところで頼りになるし……それだけじゃなくて、学術都市に来てから、ほぼほぼ一緒にいたし。今になって別れるとなると、それは、すごく寂しいと思う」

「うっ」

「だから、できればこれからもずっと一緒にいたいな」

「そ、その台詞の意味は……」

「俺達、きっと、良い友達になれると思うんだ」

「……そういう意味ですのね、はぁ……本当に、ハルさんらしいですわ」


 なぜか、最後でものすごくがっかりされてしまった。

 なんで?


「ハル、今のはないわ」

「ハルさん、ひどいです」


 なぜか、アリスとアンジュにまで責められてしまうのだった。


「なにはともあれ……わたくしも、一緒いたしますわ。改めて、これからよろしくお願いいたします」

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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