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194話 準備

 結局、俺はリリィのお願いを受けることにした。


 魔水晶を魔人が欲している。

 普通に考えて、ろくでもないことを企んでいると思うのだけど……


 でも不思議と、リリィは悪いことはしない、と信じられた。

 その根拠は? と問われると、ものすごく返答に困るのだけど……


 正直なところ、勘だ。

 リリィは敵になるのではなくて。

 かといって、敵でも味方でもない、漁夫の利を狙うようなずる賢い人でもなくて。

 なんだかんだで、最終的に味方になってくれるような……

 そんな印象を受けた。


 いや、まあ。

 勘だから絶対大丈夫、なんてことは言えないのだけど。


 それでも、俺は俺のことを信じてみようと思う。


 話が通じる相手なら、まずは信じてみて。

 それで成功すれば良し。

 失敗したら、その時はその時で、また対応を考えればいい。


 疑って裏切られるよりも。

 信じて裏切られる方が、個人的はマシだ。


 とはいえ、これは俺の勝手な考え。

 みんなから怒られるかもしれないなあ、と思っていたのだけど……


「まったく、ハルらしいわね」

「はい、ハルさんらしいですね」

「本当、ハルさんらしいですわ」


 魔法学院の寮。

 ラウンジに集まってもらい、今後のことを話したのだけど……

 アリス、アンジュ、クラウディアは揃って笑っていた。


 えっと……その反応はどういうことだろう?

 苦笑されるとか呆れられるとか、あるいは怒られるとか。

 そういうところを予想していたのだけど……


 まあいいよね、みたいな感じで、あっさりと流されてしまう。


「俺が言うのもなんだけど、本当にいいの?」


「いいか悪いかで言うと、よくはないけどね。魔人を信じるとか、さすがにどうかと思うわ」

「ですが、ハルさんがそうすると決めたのなら、私達はついていくだけです」

「なにか起きた時は、その時に考えればいいのですわ」


 そんな彼女達の台詞を聞いて、


「んー……みんな、ハルと似たような考えになっているのかな?」

「そっすね。師匠に毒されているような気がするっす」

「ハルさまに交わればハルさまに染まる……そういうことなのですね」


 みんな、よくわからない納得の仕方をしていた。


 なんだか、ものすごく不本意なのだけど……

 でも、納得してくれたのならいいか。


 ……いいのかな?


「さて。それじゃあ、二度目の図書館ダンジョン攻略会議を始めましょうか」

「わー、どんどんぱふぱふー!」

「……サナ、その妙な相づちはなにかしら?」

「知らないっす。人間は、こういう時、こうやって場を盛り上げるものじゃないっすか?」

「またよくわからない知識を、よくわからないところで仕入れてきて……」


 アリスが困ったようにため息をこぼす。

 俺も同じ思いだ。


 シルファを監視につけようか?

 でないと、サナの教育に悪いような気がする。


 ……なんて、普段の行動がアレなので、どこか親のような気分になってしまう俺だった。


「ひとまず、サナさんのことはおいておいて……クラウディアさん、図書館ダンジョンについて、改めて説明をお願いします」

「ええ、わかりましたわ」


 アンジュに促されて、クラウディアが得意そうに口を開く。

 長い間、魔法学院に在籍しているため、彼女が一番知識がある。


「最初は、普通の図書館として世界のあちらこちらにある魔法の書物を集めていたのですが……学院長が本当に見境なく集めたため、すぐにスペースがなくなり、増改築を繰り返すことになりました。さらに、中には強力な魔法書などもあり、その影響を受けて図書館がダンジョン化……それが、図書館ダンジョンとなりますわ」

「へえ、成り立ちについては初めて聞いたかも」

「話を聞くと、人工的にダンジョンを作り出したようなものね」

「そうですわね、その認識で問題ないかと」

「ダンジョンを作り出してしまうなんて、すさまじいですね……」

「そっすか? 自分は、何度か作ったことあるっすよ」

「サナさまは、ドラゴンなので……」

「はいそこ、話が脱線しているわよ」


 アリスがびしっと言う。


「クラウディア、続きをお願い」

「わかりましたわ」


 こほんと咳払いを一つ。

 それから、残りの情報を並べていく。


「ある時期から増改築は止めたのですが、その頃にはもう、大量に集められた魔法書の影響で、ダンジョンは勝手に広がっていくことになりました。全容がどうなっているのか、おそらく、学院長もわからないと思いますわ」

「作った本人がわからないって、おもしろい話だね」

「いえ、あの……シルファさん? 決しておもしろい話ではないと思いますが」

「そうかな?」

「えっと……話を続けても?」

「うん、どうぞー」


 シルファは、いつでもどんな時でもマイペースだ。

 たまに、それがうらやましくなる。


「ただ、図書館ダンジョンは学院の管轄……学院長の担当ですわ。さすがに、完全放置ということはなくて、定期的にチェックをしていらっしゃるそうです。その情報によると、現在、最下層は35層みたいですわ」

「35……」


 かなりの階層だ。

 迷宮都市の時とは比べ物にならない。


「10層まで一気に移動できる転移陣があるそうですわ。もちろん、使用許可は出ております。ただ、それ以降は、地道に探索をするしかありませんわね」

「トラップや魔物などの情報はある?」

「難しいですわ……浅い階層の情報ならありますが、深層に近づくにつれて、かなり混沌としているらしく」

「35層まで行くとなると、どれくらいの日数がかかるのでしょうか?」

「確たることは言えませんが……無理をせず安全に、となると、一日5層として、一週間前後はかかるのではないかと」

「長期間だね」

「自分が食料とか水を運ぶっすよ」

「なら、シルファは敵を倒すね」


 あれやこれやと話が進んでいく。


 一見すると、みんな我が強く、バラバラに見えるのだけど……

 実際に動くとなると、途端にまとまりが出て、うまい具合に歯車が噛み合う。


 良いパーティーだなあ。

 そんなことをしみじみと思い、胸が温かくなる。


「ハル、どうかしたの?」

「もしかして、気分でも悪いのですか……?」

「大丈夫ですの……? わたくし、薬を持ってきましょうか?」


 アリス、アンジュ、クラウディアが心配そうにこちらを見る。

 彼女達はとても優しくて……

 この出会いは、神さまに感謝するしかない。


「ううん、大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」

「無理はしていない?」

「していないよ。さあ、それよりも、詳細を詰めていかないと」


 みんなが力を貸してくれている。

 信頼してくれている。


 それに応えられるようにがんばっていこう。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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