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192話 一応、魔人です。一応

「やあ、シノ。久しぶり。元気?」


 シノにマスターと呼ばれた女の子は、彼女の驚きが目に入っていない様子で、のんびりと片手を挙げて挨拶をする。


 一方でシノは、ぽかーんとしていた。


「どうしたの? なんでそんなに驚いているの?」

「お、驚くに決まっているでしょう! いつものマスターなら、連絡をして一週間か一ヶ月か……ともかく、なかなか姿を見せないっていうのに。それなのに、なんで数日も経たないうちにこっちへ?」

「呼ばれたからね」

「ですから、どうしてこんなに早く……」

「早いとダメなの?」

「いえ、そんなことはないですけど、でも……」

「なら、いいんじゃない?」

「あー……久しぶりに会ったけど、マスターはマスターだよ、まったく」


 たった数分で、シノは一気に老け込んでしまったかのように疲れた顔に。

 シノをこんな風にしてしまうなんて……

 この人はいったい?


 いや、まあ。

 『マスター』と呼ばれていることから、想像はつくんだけど……

 でも、こんな人が? という感じで、いまいち認めなくない俺がいる。


 とはいえ、話を先に進めないと。


「えっと……シノ、もしかしてもしかしなくても、この人が……?」

「そうだよ。僕の主……魔人のリリィさまだ」

「よろしくね」

「あ、はい。よろしく……」


 握手を求められて、ついつい応えてしまう。


 なんていうか……

 思っていた展開とおもいきり違う。


 とことん意地悪な性格をしているとか。

 対価としてとんでもないことを要求してくるとか。

 この世の邪悪を集めたかのような、そんな影を持つとか。


 そんなイメージがあったのだけど、そのどれも違う。


 これじゃあ、まるで……

 普通の人じゃないか。


「シノ。もしかして、この人が例の?」

「はい、そうですよ。もしかして、マスターはなにも知らずにハルと一緒にここまで?」

「そうだね、知らないね」

「……どうして、そんなことに?」

「なんでだろうねー?」


 訂正。

 普通の人ではなくて、ちょっと変わった人だ。


 どちらにしても、想像していた魔人とぜんぜんまったくおもいきり違う。

 本当に魔人なのだろうか?


「ハルの言いたいことはわかるけど……残念ながら、とでも言うべきかな。マスターは、きちんとした魔人だよ。いや、きちんとした魔人ってなんだよ、っていうツッコミはあるかもしれないけどね」


 俺の考えを読んだらしく、シノがどこか疲れた様子で言う。

 たぶん、日頃から振り回されているんだろうな。

 どことなく疲労が伺えた。


「ところで、マスター。本当に、どうしてこんなに早かったんです?」

「フラウロスとマルファスの反応が立て続けに消えたからねー。気になって、近くまで来ていたの」

「なるほど……」

「あとは、シノが寂しがっていないかな、って様子を見に」

「……寂しいとか、そんなこと思うわけないじゃないですか」


 シノはちょっと恥ずかしがっているようだった。

 彼女にとってリリィは、親みたいな感じなのだろう。


「まあ、とにかく」


 リリィは、にっこりと笑う。


「話をしようか? シノ」

「はいはい、わかりましたよ……まったく、なんで僕が小間使いのようなことを」


 シノが紅茶とクッキーを用意してくれた。

 リリィはそれをうれしそうに口へ運ぶ。


 こうして見ていると、年相応の普通の女の子だよな。


「大体のことはシノから聞いているけど、なにを聞きたいの? 私達、魔人のこと?」

「そう、だね……うん。魔人のこと、色々と聞きたいんだけど……どれくらいまで話してくれるの?」

「なんでも」

「え?」

「なんでもいいよ。知りたいこと、全部、教えてあげるー」

「ちょ、マスター!?」


 後ろでシノが慌てているけど、本当になんでも教えてくれるのだろうか?

 だとしたら、とてもありがたいのだけど……


「ただし」


 でも、そんな都合の良い話はない。


「一つ、条件があるかな」

「条件?」

「私のお願い、聞いてほしいなー」

「対価、っていうこと?」

「うん、そんな感じ」


 それは問題ない。

 むしろ、なにかしらあるだろうと予想していたくらいだ。


 無害そうに見える女の子だけど、中身は魔人。

 いったい、どんなことを要求されるのか?


「お願いっていうのは?」

「聞いてくれる?」

「それが条件っていうのなら」

「大丈夫、無茶なことは言わないよ。誰にでもできる簡単なこと。簡単なおつかい」


 魔人であるリリィが言うと、本当に簡単なことなのか疑わしくなる。


「図書館ダンジョンを踏破してくれればいいよ」


 どこが簡単だ。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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