191話 図書館の出会い
世界を知ると決めた。
そのために前へ進むと決めた。
最初は、ちょっとした不安を抱いていたのだけど……
でも、それもアリスとアンジュのおかげで解消された。
感謝だ。
俺は、俺にできることをやっていこう。
そんなわけで、まずは図書館へ。
図書館ダンジョンではなくて、学院にある普通の図書館だ。
ちょっとした魔法を完成させるために、ここを訪れている。
図書館ダンジョンの方が、収められている本は桁違いに多いんだけど……
でも、あっちは魔物が普通に徘徊しているせいで、落ち着いて勉強することができないんだよな。
学院の図書館でも、それなりの本が収められている。
俺の知りたい情報を得るのはこちらでも問題はなくて、まずは学院の図書館を利用することにした……というわけだ。
「ふむふむ……なるほど」
いくらかの魔法書を読み漁る。
マルファス戦で使った手品。
それについての知識が補われていく。
「……あの時、成功したのはかなり運が良かったんだなあ」
そんな結論が出た。
本を読む限り、俺が考えているとある魔法については、まだまだ不確定要素が多いとのこと。
あの時、無理矢理に使っていたら、どんなことになっていたか。
危ないところだった。
「まあ、空間に干渉する魔法だからな……発動も難しければ、制御も困難。絶対に成功できる、って確信しない限りは使わない方がいいか」
とはいえ、この魔法がいつ必要になるかわからない。
俺の目的を考えると、再び魔人とぶつかる可能性は極めて高く……
少しでも早く、魔人に対する攻撃手段を得ておきたいところだ。
「そのためにも、今は勉強をしっかりしないとな」
次の魔法書に手を伸ばそうとして……
ガタッ!!!
ドサドサドサバサアアアーーーッ!!!
「なんだろう……?」
図書館にふさわしくない、けたたましい音が聞こえてきたんだけど……
何事だ?
さすがに無視することはできなくて、音がした方に足を向ける。
「これは……」
現場に到着すると、唖然とした。
本の山ができている。
たぶん、なにかしらの衝撃が棚に加わって、一気に本が落ちたのだろう。
ここは図書館の深部。
故に、他に人はいない。
「なにが起きたのかわからないけど……これ、俺一人で片付けないといけないのかな?」
放っておくことが手っ取り早いんだけど……
でも、それはダメだよね?
仕方ない。
面倒だけど、片付けるとしますか。
本の山に手を伸ばそうとして、
「……うぅうううー」
「っ!?」
いきなり不気味なうめき声が聞こえてきて、ビクリと震えてしまう。
な、なんだろう、今の声は?
苦しみに満たされているというか、それでいて切ないというか泣いているというか……
「幽霊……?」
アンジュを連れてきた方がいいかな?
あるいは、アリスが使役する精霊がなんとかしてくれるような気もする。
そんなことを考えていると、再びのうめき声。
「うぅ……」
よくよく聞いてみると、うめき声は本の山の中から聞こえてきた。
ガサゴソと、本が一冊二冊落ちる。
……もしかして、この中に人が?
「だ、大丈夫ですか!?」
慌てて本の山を発掘した。
本をどかして、どかして、どかして……
そんなことを五分くらい続けたところで、人の頭が見えてきた。
さらに本をどかして、やや強引ではあるものの、一気に引っ張り出す。
「よい……しょっ!」
「おおぅ」
スポン……という音がしたような気がした。
なにはともあれ、無事に救出完了。
ひとまず、読書用の椅子に座らせる。
「大丈夫ですか? どこか痛むところはありますか? なにか異常は?」
「んー」
矢継ぎ早に質問するのだけど、俺の焦りとは正反対に、彼女はとても落ち着いていた。
そう……本の山に埋もれていたのは女の子だった。
歳は俺と同じくらいだろうか?
背丈もそんなに変わらないと思う。
ただ……
長く伸びた髪はあちらこちらが跳ねていて、ボサボサ。
来ている服もよれていて、ところどころほつれてさえいた。
一週間くらいなにもしないで引きこもっていたら、こんな風になるのかな?
そんなことを思うくらい、ボロボロというか……そんな女の子だった。
「大丈夫?」
「うん、ありがとう」
「どうして、こんなことに……?」
「しばらくの間、ずっとここで本を読んでいたんだけど……ちょっと夢中になりすぎた。読み終わった本を周りに積んでいったんだけど」
「それが崩れて、埋もれた?」
「正解」
淡々とした口調で言う。
見た目もそうだけど、中身も変わっているのかもしれない。
って、失礼な感想だな、これは。
「助けてくれてありがとう。私は、これくらいでは死なないが、息苦しいことは確か。感謝する」
「どういたしまして?」
「お礼をしたい。ついてきて」
マイペースな女の子だ。
不思議に思いつつ、後をついていくと……
到着したのは、学院長室。
不思議に思っていると、女の子は、我が家に帰るような気軽さで中に入る。
「やあ。今、帰ったよ」
「なっ……マスター!?」
のんびりと挨拶をする女の子とは対照的に、シノはとても驚いていた。
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