184話 生まれ変わり
悪魔の王と呼ばれる存在がいて……
その存在の生まれ変わりが俺。
メチャクチャな話だ、と思う。
荒唐無稽、という言葉がよく似合う。
普通ならそんな話を信じることはない。
だって、そうだろう?
あなたは、実は人外の存在でした、なんて言われても納得できるわけがない。
ないのだけど……
不思議と、俺は納得していた。
シノはウソをついていない。
真実を語っている。
その目を見ることで、そう悟った。
「そっか……なるほど、うん。一応、理解したよ」
「な、なんかあっさりしているね」
「そうかな?」
「僕の話を信じていないわけじゃない。そう見えるのだけど……それならそれで、普通は、もっと取り乱すんじゃないかな? 僕が魔王の生まれ変わり? そんなバカな!? ……とかね」
「あー……うん。普通は、それが当たり前の反応なのかもしれないね」
これでも驚いていないわけじゃない。
いまいち実感が湧かないというか……
時間が経って、後になって取り乱してしまうのかもしれない。
ただ、それとは別に、そうはならないかな、という妙な予感もあった。
「正直なところを言うと、ある程度の予想はしていたんだ」
「へえ? おもしろい意見だね。自分が魔王の生まれ変わりだと、予想していたのかい?」
「魔王っていうのは知らない情報だから、さすがに予想外だけど……もしかしたら、俺も魔人なのかな? って思うことはあったよ」
「それは、どうして?」
「俺の力のこと、かな」
自分の手を見る。
「前はぜんぜん自覚がなかったんだけど……なんか、俺の力っておかしいみたいだから」
アリス曰く、規格外。
アンジュ曰く、とんでもない。
サナ曰く、師匠は人間離れしているっす。
そんな感じで、何度も何度も俺の持つ力について指摘されてきた。
それだけ指摘されれば、さすがにおかしいと思う。
トドメは、この魔法学院での授業。
同じ魔法使いをたくさん見かけてきたのだけど……
いずれも普通というか……
俺のような魔力を持つ人はいなかった。
「それで、俺は普通とは違うのかな、って思うようになって……で、そこで魔人の情報。もしかしたら、って考えるのは普通じゃないかな?」
「ふむふむ、なるほどね。キミは自分を客観的に見ることができる、珍しい人間なんだね」
「それ、珍しいの?」
当たり前のことだと思うんだけど。
「自分を客観的に見るというのは、なかなかに難しいことさ。自分はこうだ、こんなことじゃない、こういうものだ。そんな感じで、客観的に見ようとしても、どうしても主観が混じってしまう」
「わかるような、わからないような……」
「自分を客観的に見ることができる……それは、キミの才能だね。いや、あるいは、それすらも魔王さまの影響かもしれない」
「……できれば、それはやめてほしいところだけど」
実際のところ、俺は、どれくらいの割合で魔王とやらになっているのだろう?
その割合を聞いてみると、
「9:1で、キミが主導権を握っているよ」
「え、そんな数値なの?」
6:4とか、あるいは逆の4:6とか、そんな数値を聞かされると思っていたのだけど……
予想と違い、少し拍子抜けしてしまう。
ただ、シノの顔は険しい。
「言っておくけど、楽観できる数値じゃないからね?」
「9:1なのに?」
「相手は悪魔の王……魔王さまだよ? その影響が1割あるだけで、普通ならとんでもないことになっているよ」
「……とんでもないことって、具体的に言うと?」
「発狂するとか、体が耐えきれずに爆発するとか、あるいは湧き上がる魔力に振り回されて自滅するとか。そんなところかな?」
「こわ……」
「魔王さまの力っていうのは、それだけとんでもないんだよ。1割であろうと、並の人間なら、まず受け止められるものじゃない」
「それなら、俺は……?」
「そこは謎なんだよねえ」
さっぱりわからないというような感じで、シノが小首を傾げた。
俺も首を傾げる。
「魔王さまが生まれ変わりをするなんて、聞いたことがないし……でもまあ、なんか、実際に起きているし」
「普通はしないものなの?」
「しないね。他の悪魔と同じように、魔王さまも封印されていたはずだから……うーん、どうして生まれ変わりなんてことになったのか、皆目見当がつかないんだよ」
「そうなんだ」
「で、話を元に戻すと……魔王さまが人間に生まれ変わったとしても、普通は、その大きすぎる器に耐えきれず死んでしまう。そして、魔王さまの魂はまたどこかへ……ってパターンになるんだけど、なぜか、キミは受け止めてしまった」
「なるほど」
「まあ、世の中に絶対なんて言葉はないからね。確率はかなり低いだろうが、魔王さまの魂を受け止める人間が出てきてもおかしくはないさ」
「なら、なんの問題が?」
「魔王さまの魂を受け止めておいて、そのまま自我を保っていられること」
シノが身を乗り出してきた。
顔と顔が触れてしまいそうなほど近く……
そんな至近距離で俺の瞳を覗き込む。
「普通、すぐに意識を奪われて、魂も書き換えられるはずなのだけど……キミはそんなことになっていないみたいだ。むしろ、逆に魔王さまを抑え込んでいるような気がする。どういうことだい?」
「俺に聞かれても……」
体質なのでは?
としか答えようがない。
俺は、ごく普通の一般庶民で……
「っ……!?」
一瞬、脳裏に見知らぬ光景が浮かぶ。
暗い部屋。
たくさんの大人。
泣いている赤子。
「どうしたんだい?」
「……ううん、なんでもないよ」
疲れているのかな?
深くは気にしないで、俺は、今の光景を忘れることにした。
「まあ……そんなわけで、キミの正体は魔王さまの生まれ変わりだ。どうして、未だに人間でいられるのか? なぜ、自我を保っていられるのか? そこは不明極まりないけど……そんな感じだよ」
「なるほど……」
ひとまず、納得できた。
実感は湧いていないのだけど、それを待つ時間がもったいない。
すぐに次の行動へ移りたい。
「事実を知り、キミはどうするつもりかな?」
「……」
シノの問いかけに、すぐに答えは出てこない。
口を閉じたまま、ひたすらに思考を巡らせる。
俺の目的は?
レティシアを元に戻すこと。
そのために、悪魔や魔人について調べて……
そして、対抗するための力を得るために、魔法学院にやってきた。
それで終わり?
全てがうまくいって、レティシアを元に戻したら、そこでハッピーエンド?
……違うか。
その先にこそ、俺の目的がある。
俺は……
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