表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

180/547

179話 喰らう

「なっ、お主、なぜここに……!?」


 顔見知りなのか、マルファスが動揺していた。


 そんな彼を見ても表情を一つ変えることなく、レティシアは無造作に腕を振る。

 すると、彼女にまとわりつくかのようにしていた黒い霧が一気に動く。


 さながら、それは飢えた獣のよう。


 黒い霧は、マルファスの右手から肩までを覆い尽くした。

 マルファスは煩わしそうに手を振るものの、黒い霧はしつこく残る。

 結界などは意味を成していないようだ。


 そして……


「ぐっ、があああああぁ!!!?」


 ザンッ!


 なにかを強引に削ぎ落とすかのような、強烈で不快な音。

 それが響くとほぼ同時に、マルファスが悲鳴をあげた。


 あれだけやって、傷一つ与えることができなかったマルファスが、顔を苦悶に歪めている。

 見ると、右肩から先がごっそりと消えていた。

 まるで、巨大な獣に噛みつかれたかのよう。


 その獣というのが……レティシアなのだろう。


「レティシア……なんだよね?」

「……ハル……」


 視線が交差する。


 彼女の瞳は……変わらない。

 自分の盾になって死んで、と言った時と変わっていない。

 ギラギラとしていて、とても冷たくて、優しさが感じられない。


 でも……なんでだろう。


 それだけじゃないような気がした。

 うまく言葉にできないんだけど……

 冷たい瞳の奥に、悲しさや寂しさがチラリと隠れているような気がした。


「……ふんっ」


 こちらに興味はないという感じで、レティシアは目を逸らした。


 マルファスに向き直る。

 今は、ヤツを優先するということ……かな?


 でも、レティシアがマルファスと敵対する理由がわからない。

 話によれば、レティシアも魔人と化しているという。

 なら、マルファスの味方じゃあ……?


 それとも、魔人も一枚岩じゃないということか?

 使徒であるシノがマルファスに敵対するように……

 魔人同士でも争うことがあるのだろうか?


 ダメだ。

 考えてみるけど、さっぱりわからない。


 考察は放棄。

 今やるべきことは……


「レティシア、一つだけ聞かせて」

「……なによ?」

「レティシアは……味方? それとも、敵?」

「そうね……」

「……」

「今は、ハルの味方よ」


 なんとも微妙な言い回しだ。


 でも、今はそれで十分か。

 マルファスの味方をしないのなら、なにも問題はない。


「くっ……貴様、なにを考えている? この儂に逆らって、タダで済むと思っているのか!?」

「あら、どうなるのかしら? タダで済まないっていうの、教えてほしいんだけど……っていうか、あんたの方がタダで済んでなくない?」

「ぐぐぐ……」

「あと、あたしが裏切り者みたいな言い方、やめてくれない? 元から、あんたの味方になったつもりはないし。言ったでしょ、あたしの目的は一つだけ? それを妨害するような真似をするのなら、あんたは……敵よ」


 レティシアは手の平を突き出して、ぐぐっと、なにかを握りつぶすような仕草をとる。


 すると、その動きに合わせて黒い霧が動いて、今度はマルファスの左手に絡みついた。

 マルファスはギョッとして、慌てて振り払おうとするが、遅い。


「ぎっ、あああああああっ!?!?!?」


 レティシアが拳を握り……

 それに合わせて、黒い霧がマルファスの左肘から先を消し飛ばす。


 血は流れない。

 見た目は、俺達と同じ人間そのものなのだけど、中身は違うのだろうか?


「この儂が、こんな、ことでぇ……ふざけるなぁあああ!!!」

「っ!?」


 激怒するマルファスは、両手を失いながらも攻撃を放つ。


 こんな状態で反撃されるとは思っていなかったのだろう。

 マルファスが放つ衝撃波を、レティシアはまともに浴びてしまう。


 致命傷というわけではなさそうだけど、でも、体勢は崩れてしまう。

 ある程度のダメージにより、すぐに動くことができないでいる。


 そこを狙い、マルファスがトドメの一撃に繋げようとするのが見えた。


「俺は……」


 ふと、昔のことを思い出した。

 ずっとずっと前……

 まだ俺とレティシアが無邪気に笑っていた頃のこと。


 幼い頃の俺は弱くて、よくレティシアに守られていた。

 何度も助けられていた。


 なら、今度は……


「俺が守るっ!!!」


 失敗するかもしれない、という不安は、今この瞬間だけ消えた。

 絶対に成功できるという自信が湧き上がる。


「フレアソードッ!!!」


 魔法を使い、炎の剣を右手に顕現させる。

 それをしっかりと握りしめて、マルファスに突撃。


「ふんっ、あの方の力があろうと、今はただの人間。どうすることもできぬ! 下がっておれいっ」


 マルファスは嘲笑と共に、攻撃対象をこちらに変更した。


 防御する様子はない。

 結界があるから、そんなものは必要ない、という感じなのだろう。


 ……それは、慢心っていうんだよ?


 心の中でニヤリと笑いつつ、炎の剣を振る。


「……なに?」


 マルファスは呆けたような顔をして、己の体に刻みつけられた傷を見た。

『面白かった』『続きが気になる』と思って頂けたなら、

ブックマークや☆評価をしていただけると、執筆の励みになります。

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ