178話 久しぶりの再会
「そんなっ……今のでも無傷だなんて。これは、ど、どうすれば……」
「前に同じ魔人と相対した時、けっこうな化け物だと思っていたけど……訂正するわ。けっこうどころか、めちゃくちゃな化け物じゃない」
アンジュとアリスは、一度、魔人と相対したことがあるため言葉を紡ぐ余裕はあった。
しかし、クラウディアはその余裕がないみたいだ。
マルファスの圧倒的な力の前に、言葉が出てこない。
顔を青くして、愕然としている。
そして、シノは……
「ホント、まいっちゃうね……こうして、あなたが動くというのは予想外だよ」
とても苦い顔をしていた。
彼女は使徒だから、俺達よりも魔人に詳しい。
力が通用しないことは想定していたのだろうが……
それでも、まったく届いていない。
かすり傷一つ、負わせていない。
改めて現実を見せつけられたことが悔しいのか、苦い表情だ。
「意外と言えば意外じゃな。儂が勝手な行動をしたからといって、シノが儂の敵に回るとは」
「このまま見てみぬフリをしたら、後で僕が主に怒られるかもしれないからねえ。それは、ちょっと勘弁願いたいところなのさ」
「儂が取りなしてやるぞ?」
「遠慮しておくよ。それに……僕としても、彼らのことは気に入っているからね」
「ほう」
おもしろいことを聞いた、というかのようにマルファスが笑みを浮かべる。
悪意に満ちた笑みだ。
「ならば、こやつらを痛めつければ、シノの意外な一面を見られるかもしれぬということか?」
「それは……!」
「それはそれで、おもしろいのう。試してみる価値はあるやむしれぬ」
「そんなことをして、僕の主が黙っているとでも!?」
「まあ、黙ってはおらぬじゃろうな。儂とて、意味もなく彼女にケンカを売りたくはない」
「なら……」
「ただ、意味があればケンカを売る、ということじゃな。儂は、儂の知的好奇心を満たすために動く。それが最優先じゃ。そのことは、シノもよくわかっているじゃろう」
「くっ」
シノが睨みつけるものの、マルファスはまったく気にしていない。
むしろ、そんな反応も楽しそうにしていた。
その正体を考えると、どちらかというとシノはマルファスの味方に位置する。
位置するはずなのだけど……
そんなシノでさえ、己の欲望を満たすために利用する。
それがマルファスという男か。
「さて……もっと儂を楽しませてもらおうか?」
マルファスの威圧感が膨れ上がる。
俺達は、それぞれに身構えるが……
しかし、どれだけ対抗できるか。
どれだけ抵抗できるか。
結界という絶対無敵の防御がある限り、俺達に勝ち目はない。
逃げることすら難しいだろう。
「安心しろ、殺しはせぬ。が……しばらくは、楽しませてもらうぞ?」
「こいつ……!」
とことん趣味が悪い。
なんとか一矢報いてやりたい。
……できないことは、ない。
可能性はある。
とある方法で、ヤツにダメージを与えることができるかもしれない。
ただ、リスクが大きい。
その方法に失敗した場合、タダじゃ済まないだろう。
よくて大怪我。
最悪で、みんなを巻き込んでしまう。
その上で、成功する確率は低く……
うまくいっても、倒し切ることができるかどうか、かなり怪しい。
「とはいえ……」
このままなにもしなければ、それで終わり。
一方的になぶられるだけ。
「ほう。その目、なにか策でも思いついたかのう?」
「どうだろうね」
「くくく、やはり面白い逸材じゃ。あの方の力、思う存分に振るうといい。そして、儂を楽しませてくれ」
マルファスが動こうとして……
「……悪いけど、あんたが楽しむことはできないわ」
ふと、聞き覚えのある声が割り込んできた。
直後、天井を突き破り、黒い霧のようなものが降りてきた。
それと同時に姿を見せたのは、
「レティシア!?」
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