177話 努力は買おう
極大の爆炎がマルファスを飲み込んだ。
豪炎が荒れ狂い、熱波が撒き散らされる。
衝撃波が屋敷内のものを吹き飛ばして、いくらかの壁や天井を吹き飛ばす。
高エネルギーがその場に留まり、マルファスの体を蝕む。
「どうだ……!?」
フラウロスの時と違い、使用したのは上級火魔法。
それに、魔法学院に通ったことで、多少は制御が上達していると思う。
なので、あの時と比べると威力は格段に違うはず。
違うはずなのだけど……
「これはこれは……素晴らしい! うむ。素晴らしい威力じゃな」
業火に晒されているというのに、マルファスは平然としていた。
何事もないように、一切動じることはない。
ダメか……
もしかしたら、という期待を抱いていたのだけど裏切られてしまう。
ただ、これはこれで予想の範囲内でもある。
フラウロスは、人間の攻撃を通すことはない、というようなことを言っていた。
たぶん、威力は関係ないのだろう。
どのような仕組みなのかさっぱりわからないけど……
人間の力なのかそうでないか判別。
その上で、完全にシャットアウトしてしまうみたいだ。
「すさまじい魔力量じゃな。儂が魔人でなければ、十回は滅びていたじゃろう」
「……それ、褒めているの?」
「もちろんじゃとも。魔人が人間を褒めることなんて、普通はないぞ? そうじゃな……虎が猫に、なかなかやるじゃないかと言うようなものじゃ」
わかるような、わからないような……
でも、唯一わかることは、マルファスは俺のことをまったく警戒していないということだ。
今、こうして呑気に話をしているし……
反撃に出る気配もない。
結界があるから、こちらの攻撃が届くことはないと安心しているのだろう。
ただ、それだけじゃなくて……
たとえ結界がなかったとしても、絶対に勝つことができるという自信があるのだろう。
俺を簡単にねじ伏せてしまうような、圧倒的な力を持っているのだろう。
まずい。
まずい。
まずい。
魔人への対抗策は考えてきたものの、まだ形になっていない。
そもそも、この段階で魔人と戦うことは想定外すぎる。
一泡吹かせたいと考えたものの、やっぱり、厳しいかな……?
「とはいえ……ここで諦めたら、いくらなんでもかっこ悪すぎるよね!」
「ほう?」
抗おうとする俺を見て、マルファスは興味深そうな顔に。
大方、ここで心が折れるだろうと踏んでいたのだろう。
でも、思い通りになってたまるものか。
圧倒的な力の差があったとしても……
傷をつけられないとしても……
意地は見せてやる!
「ファイアッ!」
まずは、初級火魔法を連打。
もちろん、こんなものが通じるとは思っていない。
ただの目くらまし。
隙ができればラッキー、程度のものだ。
「ふむ、こちらもなかなかじゃな。その努力は買うが……これだけだとしたら、ちと、期待はずれじゃな」
「大丈夫、期待に応えてみせるから!」
言い放ちつつ、再びファイア。
マルファスを炎で包み込むかのように、とにかく連打。
ぶっちゃけてしまうと……
策はない。
どのようにしたら、マルファルの結界を突破できるのか?
具体的な考えはなにもない。
でも、諦めたわけじゃない。
ある程度、運が絡んでくると思うけど……
色々なことを信じているだけだ。
そして……
結果、俺の願い、思いは届く。
「ヒカリッ!」
どこからともなくアリスの声が響いて、
「ダブルスラッシュ!」
精霊の力を借りた剣技が炸裂した。
それだけじゃない。
「「アイスストーム!!」」
続けて、クラウディアとシノの声が響いた。
それぞれ、同時に魔法を詠唱。
氷の嵐が吹き荒れて、マルファスを飲み込む。
結界があるため、ダメージが通っている様子はない。
ただ、その体を凍らせて、動きを封じることはできたみたいだ。
うん、この時を待っていた。
みんななら、必ずマルファスの罠を打ち破ると信じていた。
そして、一緒に力を合わせてくれると信じていた。
この信じる思いこそが、俺達の力なのだろう。
そう思う。
だから……それを一気にぶつける!
「みんな!」
強い口調で呼びかけた。
アリス、クラウディア、シノはそれぞれこちらを見て、小さく頷いた。
俺は、再びエクスプロージョンを。
アリスは、ヒカリの力を借りた最大剣技を。
クラウディアも、同じくエクスプロージョンを。
シノは、上級風魔法を。
それぞれが持つ最大の技を、タイミングを合わせて、同時に叩き込む!
「いけえええええぇっ!!!」
これで倒せるとは思わない。
運が良くても、かすり傷といったところだろうか?
それでも、一矢報いることはできた。
そう納得することができる。
果たして、その結果は……?
「……こんな結果、か」
マルファスは傷一つつくことなく、変わらずに不敵な笑みを浮かべていた。
引っ越しの影響で、少し作業が追いつかず……
金曜日の更新はお休みさせていただきます。




