176話 まずは合格
ゴッ……ガァアアアアアッ!!!!!
極大の爆発が起きた。
火炎が竜のごとく荒れ狂い、爆風が嵐のごとく吹き荒れる。
ビシビシビシ、とガラスにヒビが入るような音。
見ると、暗闇に亀裂が入っていた。
その亀裂は上下左右、空間全体に広がっていき……
キィンッ!!!
闇が弾けて、バラバラに飛び散る。
「もとに戻ることができた……のかな?」
結界に閉じ込められたのなら、結界で抑え込めないほどの力をあふれさせてしまえばいい。
そう考えて、上級火魔法を放ったのだけど……
どうやら、うまくいったみたいだ。
闇一色から、元の部屋に景色が戻っている。
ただ、みんなの姿はない。
「アリス! クラウディア! シノ!」
呼びかけてみるのだけど、返事はない。
姿が見えないから、まだ結界に囚われたままなのだろうか?
みんな強いから、そのうち自力で脱出できると思うのだけど……
でも心配だ。
俺になにかできないだろうか?
例えば、外から圧力をかけることで結界を破壊するとか。
「……やめておいた方がいいか」
結界と一緒にみんなが潰れるとか、そんな事態になったら最悪だ。
今、俺が脱出した方法も、かなり強引なものだと思うし……
外から圧力をかけるのは最終手段。
みんなを信じて、様子を見ることにしよう。
「これは……ほう、実に興味深い」
「マルファスか!」
振り返ると、さきほどまでいなかったところにマルファスの姿が。
顎の髭を指先で撫でつつ、こちらを見ている。
その瞳にあるものは、好奇心だ。
「儂の捕縛結界を破るか。その方法が、内部で極大爆発を起こすとは……いやいや、それは考えていなかったな。己を巻き込むかもしれないのに、そのようなことをするとは。あの方の力を持つだけあって、度胸も大したものじゃ」
「……あの方、っていうのは?」
「さてのう」
教えるつもりはないらしく、ほっほっほ、と軽く笑う。
完全に俺を見下している。
結界を破ったことに驚きはあるようだけど、ただ、それも想定内といった感じだ。
もしかしたら、というくらいに考えていたのだろう。
腹立たしい。
でも、苛立ち心を乱されていたら、勝てるものも勝てなくなってしまう。
ましてや、相手は魔人。
人智を超えた力を持つ者。
どんな時でも百パーセントの力を出せるようにして……
なおかつ、ほんのわずかな勝機も見逃さないように注意しないと。
「まずは合格じゃ」
「合格?」
「あの程度の結界を自力でどうしようもできるのなら、まあ、合格としていいじゃろう」
「……もしも脱出できなくて、不合格になっていたら?」
「さて、のう」
答えをはぐらかすものの、悪意に満ちた笑みを見れば、どのような結末になっていたかはだいたい想像ができる。
やっぱりというか、コイツ、性格が悪い。
おもいきり歪んでいて、フラウロスといい勝負だ。
「さて。儂の知的好奇心を満たすため、もうしばらく付き合ってもらうぞ」
「断ったら?」
「仲間を見捨てられるのかな?」
「くっ……」
選択肢はない、ということか。
でも、上等だ。
ここまで引っ掻き回してくれたマルファスを、はいさようなら、なんて見逃すわけにはいかない。
倒すことは難しいかもしれないけど……
でも、一泡吹かせるくらいのことはしてやる!
「あぁ、力をセーブする必要はないぞ? いつもと変わらないように見えるが、すでに結界は展開しておるからのう。全力で来るといい」
「随分と優しいね」
「変な配慮をされて、全力を見れない方がもったいないからのう。そのためなら、お膳立てくらいはするわい」
「優しいね、涙が出てきそうだよ……ファイア!」
まずは、様子見。
中くらいの力で、初級火魔法を放つ。
獣のごとく、炎が大地を疾走する。
そのままマルファスに食らいつくが、
「ふぉっふぉっふぉ、ぬるいのう」
マルファスは余裕の笑みを崩さない。
まともに炎を浴びたはずなのに、今なにかした? というような感じで微動だにしない。
フラウロスの言葉を思い出す。
魔人は、普通の人間では絶対に危害を加えられないような、絶対無敵の結界が常時展開されている。
それを突破することは不可能。
ヤツにダメージを与える方法は、二つ。
同じ魔人が攻撃をするか……
あるいは、普通の人間では出せないような超火力を叩き出すこと。
今の俺の最大火力は、上級火魔法のエクスプロージョン。
フラウロス戦の時と比べると火力は上昇しているものの……
しかし、これでダメージを与えることができるかというと、不安が残る。
「どうしたのじゃ、なにを迷っておる?」
「……」
「ほれ、儂を退屈させるな」
「くっ……!」
やるしかない。
エクスプロージョンが通じなかったとしても、まだ切り札はある。
だから、まずは……
「エクスプロージョンッ!!!」
ありったけの力を込めて、上級火魔法を叩き込んだ!
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