175話 闇の使い手
「さて……では、やるとしようかのう」
「くっ」
問答無用だった。
マルファスは両手を広げて、魔力を収束させていく。
背中がゾッと震えてしまうほどの、強大な魔力が。
フラウロスと対峙した時のような絶望感を抱く。
恐怖に負けてしまいそうになるのだけど……
でも、泣き言なんて言っていられない。
降りかかる火の粉は払わないといけない。
その対象が俺だけじゃなくて、みんなも含まれているとなると、なおさらだ。
「シノ!」
「な、なんだい……?」
「アイツのこと、ある程度は知っているんだよね? なら、その能力を……」
教えてくれないか?
そう言おうとしたところで、いきなり目の前の光景が変わる。
「な、なんだ……?」
みんなの姿がいきなり消えて、俺一人になってしまう。
マルファスもいない。
それだけじゃなくて、昼から夜になって、一気に暗くなる。
響く音は自分の足音だけ。
「アリス?」
暗闇に食べられてしまったかのように、なにも見えない。
「クラウディア? シノ?」
呼びかけるものの、返事はない。
俺一人……なのか?
それとも、すぐ近くにいるけれど、互いに気がつくことができない状況にいる?
「これは、いったいなにが……っ!?」
暗闇の中で一人、困惑していると、不意に殺気が襲ってきた。
なにも見えないのだけど、このままではまずいと直感が告げる。
とにかくも、横に跳ぶ。
その直後、
ガァッ!
さきほどまで立っていた場所を、ナニカが高速で通り過ぎるような音がした。
相変わらず視界はゼロなのだけど、なにかしらの攻撃を受けていることは理解できる。
「これがマルファスの能力なのか……?」
極度の暗闇を作り出して、そこに対象を隔離。
闇に乗じて攻撃をする。
脅威といえば脅威なのだけど……
人智を超えた力を持つ魔人にしては、やけにセコイ能力のような?
そもそも、みんなの声がまったく聞こえないというのはおかしい。
姿が見えなくても、声や音は聞こえてもいいはずだ。
この暗闇は、結界のような機能も有しているのだろうか?
「ええいっ、考えても仕方ない! まずは……」
手の平を真上に向けて、魔力を収束。
おもいきり解き放つ。
「フレアブラスト!!!」
ゴウッ!!!
と、極大の炎柱が立ち上がる。
荒れ狂う炎が暗闇を消し飛ばす……
ということはなくて、闇を照らすこともできず、すぐに消えてしまう。
「アリス! クラウディア! シノ!」
もう一度呼びかけるものの、みんなからの返事はない。
大丈夫だろうか?
怪我をしていないだろうか?
怖い思いをしていないだろうか?
こんなこと、絶対に考えたくはないのだけど……
致命的な傷を負っていないだろうか?
「……いや、大丈夫だ」
アリスもクラウディアも強い。
実力的な面はもちろん、心も強い。
突発的な事態に驚くことはあっても、慌てることなく、冷静に対処法を見つけようとするだろう。
シノも強い。
彼女は使徒というのだから、その力は侮れないものがあるし……
なにかしらの切り札を持っている可能性も高い。
「うん……大丈夫、みんなは平気のはず」
そう自分に言い聞かせて、多少、落ち着きを取り戻すことができた。
みんなは問題ない。
それぞれに自力で道を切り開いてくれるはず。
そう信じることにして……
俺は、俺にできることをしよう。
「マルファスは俺に興味を持っているようなことを言っていたから、たぶん、一番に狙われているのは俺だよな? 他のみんなは、隔離されているか囚われているか、たぶん、そんな感じだと思う」
力を見たいという以上、みんなを人質にして、おとなしくしろ、なんて言ってくるとは思えない。
たぶん、マルファスは、今もどこかで俺の様子を見ているのだろう。
いや、観察か?
どちらにしても、悪趣味だ。
俺が現状を打破できるかどうか、ニヤニヤしつつ見ているに違いない。
見ていろよ。
その余裕、壊してやる!
「すぅ……はぁあああ……」
深呼吸をした。
気持ちを落ち着けるだけじゃなくて、魔力を練り上げる。
深く、深く、深く……
極限まで集中をして、ありったけの魔力を手の平に集めていく。
かなりの荒業になってしまうけど、これなら、たぶん突破できるはずだ。
失敗してしまったら打つ手がなくなってしまうのだけど……
その時はその時。
またなにか、新しい方法を考えよう。
人間の意地、見せてやる。
「エクスプロージョンッ!!!」
ありったけの魔力を練り上げて、上級火魔法を解き放つ。
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