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174話 試し

 全員、顔が強ばる。

 魔人の力を知っている俺達は、ピクリとも動くことができない。


 クラウディアは、魔人の情報は持たないはずだけど……

 ただ、とんでもなくやばい相手、ということは理解できる様子で震えていた。


 そして、シノも顔を青くしていた。

 彼女は魔人の部下……使徒らしいから、逆らうことはできないのだろう。

 もしかしたら、マルファスは魔人ではあるが、天敵のような存在かもしれない。

 彼女の態度から、そんな予想を立てる。


「さて……久方ぶりじゃのう」


 その言葉は、俺達に向けたものか。

 あるいは、シノに向けたものか。


 どちらにしても、気軽な挨拶だとしても、一ミリたりとも気を抜くことができない。

 こいつは人知を超えた存在なのだから。


「どうして、ここに?」

「なに、大した事情じゃない。ここの領主の息子、アインと言ったか? ヤツに協力していたのじゃよ」

「協力? ……まさか、天使の鈴でクラウディアが逆に支配権を奪われたのは」

「察しがいいのう。そうじゃ、儂の仕業じゃ」

「なぜ、そんなことを?」


 怒りが湧いてくるが、さすがに、無策で飛び込むほどバカじゃない。

 いつでも動けるように構えつつ、ただ、完全に心を押さえ込むことはできず……強い口調で問いかける。


「深い意味はないのじゃが……まあ、お主がどう対応するか、それが知りたくてのう」

「俺の……?」

「渾身の策が打ち破られて、しかも、切り札が敵の手に渡る。そのような状況で、お主はどうするのか? ふと思いついて、そこを観察したくてのう」

「なぜ、そんなことを……?」

「強いて理由を挙げるのならば、好奇心じゃろうか」

「好奇心?」

「言ったじゃろう? 儂は、お主らと敵対するつもりはない。しかし、色々と知りたいことがある。それ故に、今回はアインという人間に力を貸した、というわけじゃ」


 そんな理由でクラウディアが危険に晒されたなんて……

 拳を強く強く握りしめる。


 できることならば、この怒りをぶつけてしまいたい。

 一発、おもいきり殴りたい。


 とはいえ、相手は魔人。

 軽率な行動で、俺だけじゃなくてみんなを危険に晒してしまうかもしれない。


 なんとか怒りを抑えつつ、質問を続ける。


「……好奇心で行動していたのなら、もう十分じゃない? アインや領主をかばおうとしないで、そろそろ手を引いてくれると助かるんだけど」

「そうしてもよかったのじゃが……悪いのう、欲が出てきてしもうた。もっと試してみたいと、そんな好奇心が湧いてきてしもうた」


 マルファスがニヤリと笑う。


 とても醜悪な笑みだ。

 この世の悪感情を凝縮して詰め込んだような……

 見ているだけで心がざわざわとかき乱される。


「この上、なにを知りたいっていうのさ?」

「なに、簡単なことじゃ」


 すぅっと、マルファスは指先をこちらに向けた。


 その指先がゆっくりと横に移動して……

 クラウディアのところで止まる。


「その娘を殺させてはくれないかのう?」

「……なんだって?」


 一瞬、マルファルがなにを言っているか理解できなかった。

 幻聴かと勘違いした。


 でも、それは勘違いなんかじゃなくて……


「お主は、ずいぶんとその娘に入れ込んでいるみたいじゃからのう。いや? というよりは、傷つき弱っている者に対して、か? まあ、どちらでもいいわい。とにかく……その娘が死ねば、お主は、今まで以上に心が乱されるじゃろう」

「それが……なんだ」

「その時に、また、あの方の力が発現するか……知りたくなってしもうたのじゃよ」

「ちょ、ちょっと待った!」


 シノが慌てた様子で会話に割り込んできた。


「そういうことはしないって、僕の主と、そういう約束をしただろう!? 必要以上に手を出すことはしない、監視をメインとする、って」

「したのう」

「なら……!」

「すまんのう。好奇心は抑えられぬ。一度、湧き出た好奇心を抑え込むことは、儂には難しくてのう……そのことは、シノも知っておるじゃろう?」

「うぐ……」


 シノはマルファスの性格をよく知っているらしく、苦い顔に。

 彼を止められないと、そう判断してしまったのだろう。


 ただ、すぐに諦めることはなく、次の言葉をぶつける。


「えと……そうだ! そんなことをしたら、フラウロスと同じ結末を辿ることになるぜ?」

「なに、そのための天使の鈴じゃ」


 マルファスは笑いつつ、天使の鈴を取り出す。


「アインとかいう人間に手を貸した理由は、もう一つあってのう。天使の鈴を手に入れることじゃ。これはかなり強力な魔道具故、あの方の力が発現したとしても、多少は抑え込むことができる。まずいことになれば、逃げればいい……それだけじゃ」

「コイツ……!」


 シノは、ギリギリと奥歯を噛む。

 その顔は怒りと苛立ちで満ちていた。


 てっきり、彼女は使徒だからマルファスの味方だと思っていたのだけど……

 でも、そういうわけじゃないらしい。


 魔人についての調査はぜんぜん進まなくて、謎ばかり増えていく。

 これはもう、話せないとかそういうのは無視して、シノを問い詰めるしかないな。


 もっとも……

 まずは、この状況をなんとかしないといけないのだけど。

本日から更新を再開します。

またよろしくお願いします。


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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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