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173話 影で動くもの

「……」


 真正面からきっぱりと拒絶の意思を叩きつけられたアインは、呆然とした。


 彼は、クラウディアを、どのように扱ってもいい、好きにしてもいい……自分の道具と考えている節があった。

 だから、そう思っていた相手に拒絶されて、ショックを受けているのかもしれない。

 ショックというよりは、つまらないプライドが傷ついた、という感じかな?


 うん、いい気味だ。

 これくらいでクラウディアが受けた心の傷の意趣返しにはならないし、俺が言うようなことじゃないことはわかっているのだけど……

 それでも、こう思う。


 ざまあみろ、ってね。


「ふむ。とにかくも、さっさと調査をしてしまおう。理由は……言わなくてもわかるね?」

「うん、そうだね」


 かなり強引なことをしているため、早く不正の証拠を見つけないといけない。

 証拠を隠滅されるかもしれないし……

 そもそも強引な調査のため、こちらの非を問われるかもしれない。


 遅れれば遅れるほどこちらが不利になる。

 できるだけ早い調査をしないと。


「それじゃあ、行こう」

「はい、こちらですわ」


 クラウディアの案内で屋敷の奥へ向かう。


 途中、使用人達とすれ違うけど、クラウディアがいることで大きな騒ぎになることない。

 アインの私兵と思われる連中に遭遇することもあったけど、それは、眠ってもらうことにした。

 方法は物理で。


 そのような感じで屋敷内を探索すること、十分ほど。

 アインの部屋で隠し部屋を発見した。


「これはまた……」


 隠し部屋を調査すると、シノがおもいきり眉をしかめた。

 アリスもクラウディアも同じような顔で……

 たぶん、俺も似たような表情になっていると思う。


 不正の証拠が盛りだくさんだ。

 横領に賄賂なんてものは生易しいもので……


 殺人などの指示や、あるいは脅迫。

 人としてアウトな部分もあれば……


 機密情報の流出や横流し、私的な利用などなど。

 統治者としてアウトな部分もかなり多い。


 こうしてわざわざ証拠を残しているのは、絶対に見つからないという自信があるのだろう。

 それと、いざという時は共犯者を、お前も一蓮托生だぞ? と脅すためのものだろう。


 まあ、全ての証拠を残しているとは思えないから……

 これは氷山の一角なのだろう。

 いったい、どれだけの悪事を積み重ねてきたのか。

 怒りを通り越して呆れ果ててしまう。


「これは、いや……ホント、まいったね。なにかやらかしているとは思っていたけど、まさか、ここまでとは……」


 この結果はシノも予想外だったらしく、とても苦い顔をしていた。


「利益は出しているから、見逃していたが……いや、甘かったね。もっとしっかりと調べて、注視しておくべきだったよ」

「シノのせいじゃないよ」

「いや、僕の責任は大きいよ。魔法学院の学長となれば、領主に次ぐ権力があるからね。それなのに、こうして放置していたのは……」

「それでも、シノのせいじゃないよ」

「キミは……」

「領主が悪いに決まっているじゃないか。それなのに、いらない責任を感じる必要はないよ」

「……ありがとう。キミは優しいね」


 シノが微笑み、


「……ハルってば、そういう台詞をナチュラルに言えちゃうところが、色々と厄介なところよね。クラウディアもそうだけど、新しいライバルがどんどん増えていくわ」


 なにやらアリスがジト目をこちらに向けていた。

 なぜ?


「よし、気持ちを切り替えていこうか。証拠は山程ある。できる限りを持ち帰り、それを元に、領主を弾劾することにしよう」

「それは困るのう」

「っ!?」


 俺達以外、誰もいなかったはずなのに、突然、第三者の声が響いた。


 慌てて振り返ると……

 以前、辺境の村で遭遇した魔人……マルファスの姿が。

諸事情により、一週間ほど更新を休みます。

次回更新は17日(水)を予定しています。

詳細は活動報告にて。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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