１７１話　消し飛ばす

「今度こそ、師匠にいいところを見せるっす！」

「みなさまに負けていられませんね」

　続けてサナとナインが動いた。

　サナはまっすぐに突進。

　変異種にとってはいい的なのだけど、ドラゴンなので相当に頑丈だ。

　大した傷をつけることができず、サナの接近を許してしまい、強烈な拳打を浴びる。

　サナの攻撃に変異種が怯む。

　そこを見逃さず、ナインが駆けた。

　両手に持つ剣を交互に滑らせた。

　サナの攻撃が叩きつけられた箇所を狙う。

　ザンッ！！！

　変異種の首が一つ、飛ぶ。

「これならどうっすか！？」

「サナがやったわけじゃないのに、なんか得意そうだね」

　シルファの冷静なツッコミを気にせず、サナはドヤ顔を決めた。

　だがしかし。

　切断された首との間に触手のようなものが伸びて、結合して、元に戻ってしまう。

　ただ、それは予想済み。

　頭部を砕かれても尚再生するのなら、切断しても意味がないと考えるのは当たり前のことだ。

　だから、俺達はすでに次の行動に移っていた。

「グルァアアアアアッ！！！」

　変異種が炎のブレスと毒のブレス、同時に叩きつけてくるが、

「ホーリーシールド！」

　先読みしていたアンジュが、神聖防御魔法で防いだ。

　ナイス！

　心の中でそう言いつつ、俺は俺で、別の魔法を唱える。

「フレアブラストッ！」

　中級火魔法。

　範囲は絞っているものの、その分、威力はほぼほぼ最大。

　防御能力を持たない変異種は、極大の火力に抗うことができず、その身が焼かれ削り取られていく。

　しかし、焼かれつつも変異種の体は再生を始めていた。

　とんでもない生命力。

　ありえないほどの再生能力。

　戦闘中ではあるものの、一つの疑問が。

　これほどの力を持つ魔物を作り出すなんて、いったい、どうやって……？

　ファナシス家は学術都市の領主であり、全ての権力を握る。

　それならば、学術都市の知識、技術を結集させることも可能だろうけど……

　それでもまだ、こんな化け物を生み出すことなんて不可能に思えた。

　これはもう、人の領分を超えている。

　その先にいる者の仕業だ。

　もしかして……

「ハル！」

「っ……いいよ。任せた、アリス！」

　今は考え事をしている場合じゃないか。

　目の前の変異種に集中する。

「ファイアッ！」

　今度は、下級火魔法。

　でも、なぜか俺は魔力がおかしいくらいにあるらしく……

　下級火魔法でも特大の火力が生まれる。

　さらに変異種の全身を焼いて、その巨大で歪な体を削り取る。

　そして……目的のもの、変異種の心臓が見えた。

　まずはみんなが頭部などを潰して、敵の注意を逸らして……

　その間に、徹底的な攻撃で急所を露出させる。

　それが作戦だ。

　事前に打ち合わせはしていないけど、でも、その場で考えてアイコンタクトでの意思疎通なら可能だ。

　それくらいの絆はある。

「いくよ」

　アリスは優しい顔をして、精霊のヒカリに声をかける。

　ヒカリは了解と言うようにアリスの周囲を飛ぶと、そのまま剣の中に入る。

　彼女の剣が輝いて、さらに熱も発する。

「ハァッ！！！」

　精霊の力を借りた一撃は、紙のように変異種の心臓を切り裂いた。

　縦に両断されて……

　さらにアリスは剣を横に、斜めに、正面に。

　ありとあらゆる角度で切りつけて、細切れにしてしまう。

　尋常ではない再生力を持っていたとしても、力の源である心臓をやられてしまえば、どうすることもできないだろう。

　変異種は、そのまま床に沈む……

「……まだ死なないのか！？」

　変異種は、まだ生きていた。

　心臓を潰されたことは痛手だったらしく、今までのように正確な再生はできていない。

　ただ、さらに頭部が増殖したり手足が増えたり、体そのものが膨張を始めたり……

　明らかに暴走していた。

「うわ、グロいね」

「シルファさんは無表情で言うので、あまり動揺しているように見えませんね……」

「シルファはこういうのに耐性があるからね。えへん」

　こんな時も変わらないシルファは頼もしく、おかげで落ち着くことができた。

「ハル、どうする？」

「こうなると、消し飛ばさないと無理かな……」

「そ、それは……」

　アリスが困ったような顔に。

　それだけの火力を叩き出せば、屋敷は間違いなく吹き飛ぶ。

　この騒動だ。

　使用人達はとっくに逃げているだろうし、残っているのは、ファナシス家と深い繋がりがある人だけ。

　ただ、その全てが悪人というわけじゃない。

　金で雇われている人もいれば、忠義で尽くしている人もいるはず。

　そんな人達を巻き込むことは、さすがに……

「師匠、師匠。自分に任せてくださいっす！」

「なにか考えが？」

「ようは、アイツを倒しても、他を巻き込まなければいいっすよね？　なら……こうすれば解決っすよ！」

　サナは突撃すると、でたらめな再生を繰り返す変異種をガッチリと両手で掴んで、抱えた。

　そのまま気合を入れて、

「ふんぬりゃあああああっ！！！」

　屋根を突き破り、空高くに放り投げる。

　とんでもない腕力だ。

　でもこれなら！

「遠慮なくやれるね、ナイスだよ、サナ！」

「えへへー、師匠に褒められたっす」

「というわけで……これでさようならだ、エクスプロージョン！！！」

　今度は、全力全開の上級火魔法を放った。