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169話 押し通る

 自分を取り戻したクラウディアは、アインを突き飛ばして逃げる。


 天使の鈴の支配に抗うには、かなりの精神力が必要だったのだろう。

 とても疲労した様子で、ハァハァと荒い吐息をこぼしていて、今にも倒れてしまいそうだ。


 それでも、自分の足でしっかりと歩いて……

 俺達のところに戻ってきた。


「クラウディア、大丈夫?」

「申しわけ……ありません……」

「どうして謝るの?」

「わたくしが、未熟なせいで……ハルさん達の足を、引っ張ることに……」

「いいよ」


 フラフラのクラウディアをしっかりと抱きしめた。

 恥ずかしいらしく、彼女は赤くなるのだけど……

 でも、今は離さない。

 離してやらない。


 クラウディアは、ようやく自分の意思で歩くことができたんだ。

 その決意を、その意思を、少しでも支えたいと思う。


「おつかれさま、クラウディア」

「……はいっ」


 クラウディアは涙を浮かべつつも、にっこりと笑うのだった。


 本当の意味で、彼女が家の呪縛から開放された瞬間だ。


「バカな……!? 天使の鈴の力を強引に解除するなんて、そんなこと、無能にできるわけがない! それなのに、これは、いったい……!?」


 目の前で起きた現実を信じることができない様子で、アインが喚いていた。


 彼にとって、クラウディアはあくまでも無能。

 天使の鈴の支配力をねじ伏せるなんてこと、不可能と断定しているらしい。


 自分の考えこそが正しいと信じて疑わず、他人を信じることができない。

 どこまでも愚かな人だ。


 ふと、城塞都市のオルドのことを思い出した。

 自分の欲望を満たすためにアンジュを陥れようとして、都市の人を巻き込んで……

 それでも尚、自分が正しいと信じて疑わない。


 こういうどうしようもない人間は、残念なことだけど、それなりの数がいる。

 いつも他者を虐げている。

 愚かなことだ。

 こんな人間ばかり見ていると、その存在が正しいかどうか、非常に疑わしく……


「……あれ?」


 俺……今、なにを考えていた?

 人間を見下すような、そんな発想が自然と湧いてきていた。


 どうしようもない人も多いけど、でも、それは一部のみ。

 みんなのような頼りになって、心を委ねることができる人もいる。


 そのことを知っているはずなのに……今、人間そのものがくだらないと、そう断じるような考えをしていた。

 アインに強い怒りを覚えたせいか、そういう方向に思考が引っ張られたのだろうか?


「ハルさん……?」

「……ううん、なんでもないよ」


 ただの気の迷いのようなもので、深く気にする必要はない。

 そう決めて……


 とにかくも、今はアインの対処を行うことにした。

 目で合図を送ると、シノが前に出る。


「さて……アイン・ファナシス。キミ達ファナシス家は、この学術都市を治める領主という立場でありながら、不正な行いに手を染めて私腹を肥やし、上に立つ者の責務を忘れていると僕は判断した。故に、今から強制監査を行わせてもらうよ」

「強制監査だと……?」

「おとなしくしてもらえるかな。その方がスムーズに事が運ぶし、キミも痛い思いをしないで済むからね」

「……」

「どうしたのかな?」

「くっ、くくく……ははっ、あはははははっ!!!」


 アインが哄笑を響かせる。


 何度も何度も笑い……

 それから、爬虫類が獲物を狙うような感じで睨みつけてきた。


「身の程を知れ、平民ごときが」

「ふむ」

「僕を誰だと思っている? ファナシス家をなんだと思っている? 勘違いしているようだから言ってあげよう……この学術都市の支配者は、あなたじゃない。僕だ!」


 宣戦布告をするように、アインが断言した。


 シノを相手にしても、一歩も引かない。

 それどころか、逆に啖呵を切る姿を見る限り、度胸はあるみたいだ。


「おい!」


 アインが屋敷の奥に声を響かせる。

 ほどなくして、武装した兵士が無数に現れた。


 こういう時のために、ファナシス家に雇われているのだろう。


「こいつら、全員殺せ!」

「……クラウディアさまもでしょうか?」

「ああ、構わない。この僕に逆らうような愚かな妹はもういらない。消してしまえ!」


 実の妹なのに、道具としてしか見ていない。

 そして、簡単に切り捨ててしまう。


 やっぱり、この男はどうしようもない。


「ふむ……これは、なかなかに厄介な展開になったね」


 シノが難しい顔に。


「見た感じ、彼らの練度は相当なものだね。一流の冒険者に匹敵すると思う。それが十数人……うーん、なかなか厳しい戦いになりそうだ」

「大丈夫よ」

「はい、心配いりませんね」

「え?」


 険しい表情をするシノとは正反対に、アリスとアンジュは落ち着いていた。

 いや、二人だけじゃない。

 ナイン、サナ、シルファも慌てていない。


 そんなみんなを見て、シノとクラウディアが不思議そうな顔に。


「キミたち、状況がわからないのかい……? 言っておくが、僕の見立ては正しいよ。彼ら一人一人が一流の冒険者に匹敵するというのは、正当な評価だ。あるいは、それ以上の者がいるかもしれない」

「学院長の言う通りですわ……ファナシス家の私兵は実力者ばかりで、さらに、その装備も強力なものばかりで……」

「大丈夫っす!」


 不安そうな顔をする二人に、サナが、ぐっと親指を立ててみせる。


「そこらの人間がいくら集まろうと、どれだけ武装しようと、ドラゴンである自分の敵じゃないっす。そもそも……」

「そもそも?」

「師匠の敵じゃないっす!」

「そんなわけで……ハル、がんばってね。シルファは、後ろからがんばれーと応援しているからね」

「ちょ」


 シルファにぐいぐいと背中を押されてしまう。


 もちろん、ここで戦わないという選択肢はないし、俺が先陣を切るつもりではあったのだけど……

 ここまであからさまに戦えと言われてしまうと、なんというか、複雑な気分だ。


 まあ……信頼されているからできることで、そう考えるとうれしいことなのか。

 そうやって気持ちを切り替えて、ファナシス家の私兵と向き合う。


 彼らは十数人もいて、それぞれが一流。

 ちまちまと戦っていたら、混戦に発展してしまうかもしれない。


 なので、そうなる前に、こちらのとっておきを繰り出すことにした。


「エクスプロージョン!」


 この前、覚えたばかりの、火属性の上級魔法。

 それをぶちかます!

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] いやいやいや、中級でドラゴン倒せるのに上級なんて使ったらあたり一面吹き飛びそうだけどみんな大丈夫なのかな?次回どれだけやらかしてるのか期待して待ってます
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