168話 呪縛を解き放て
「クラウディア!」
屋敷に踏み込んで、色々な部屋を探して……
そして、ようやくクラウディアを見つけることができた。
「……」
クラウディアは虚ろな目をしていて、反応がない。
まるで人形みたいだ。
「クラウディア?」
「……」
もう一度、呼びかけてみるものの、やはり結果は同じ。
これは……?
「無駄だ」
クラウディアに気を取られていて視界に入らなかったのだけど、アインもいた。
俺達の考えていることは全てわかる、というような感じで、不敵な笑みを浮かべている。
イヤな感じだ。
前に相対した時から、いけすかない印象を受けていたものの……
今は、単純に性格が悪そうというだけじゃない。
世の中の悪意をたっぷりと凝縮したかのようで、嫌悪感を通り越して、寒気すら覚える。
この男……いつの間に、これほどのプレッシャーを?
本能が危機感を覚える。
例えるならば、魔人と相対したかのような……
そんな危機感。
「クラウディアになにをしたの!?」
「お前達がやろうとしていたことさ」
アリスの厳しい問いかけに、アインは余裕の笑みを浮かべつつ、天使の鈴を取り出した。
なにかしらの方法で無効化されたとアリスから聞いていたのだけど……
そのまま、奪われてしまったみたいだ。
「さっきまでキャンキャン鳴いていて、うるさかったからな。こうして、おとなしくなってもらったというわけさ」
「あなたという人は……!」
「なぜ、そのようなひどいことをするのですか!? クラウディアさんは、あなたの妹なのでしょう!?」
アンジュの問いかけに、アインは歪な笑みを返す。
「そう、クラウディアは妹だ。僕の大事な妹だ」
アインはクラウディアを後ろから抱きしめる。
そうすることで、彼女は自分のものだと誇示しているかのようだ。
操られているクラウディアは抵抗することなく、顔色をまったく変えない。
ただただ、されるがままだ。
「大事な妹だからこそ、僕のために役に立ってもらわないとね。なにもできない、なにも持たない能無しだからこそ、せめて、きちんと言うことを聞いてもらわないと。それなのに……まったく、忌々しい! この僕に逆らうだけじゃなくて、こんなものを使おうとするなんて!!!」
クラウディアに反抗されたことがよほど腹立たしいらしく、アインは、彼女を掴む手に力を入れた。
ギリギリと鳴る。
意識があれば、クラウディアは悲鳴をあげていたかもしれない。
今すぐに止めたいのだけど、しかし、人質に取られているようなものなので、迂闊に動くことはできない。
「……師匠、どうするっすか? 自分、アイツ嫌いっす」
「……同じく。でも、これじゃあ動けないね」
「……隙があればいいのですが、悔しいです」
みんなも強い怒りを覚えていた。
しかし、下手に動くことはできないため、とても苦い顔をしている。
「……シノ、天使の鈴の解除方法は?」
「……ないことはないけど、直接、接触しないと厳しいかな」
「……他にないの?」
「……うーん、精神的な揺らぎがあれば、あるいは、自力で意識を取り戻すことも」
精神的な揺らぎ……強く心が動かされる、ということだろうか?
そういうことなら、なんとかなるかもしれない。
クラウディアは、とても強い心を持つ、強い女の子で……
そして、かなりの負けず嫌いだ。
「クラウディアッ!!!」
どうかうまくいってほしいと願いながら、強く叫ぶ。
「この際だから言わせてもらうけど、少しがっかりしたよ! そんな、どうでもいいような男に操られるなんて、実は、クラウディアは大したことないんだね。魔法学院で生徒会長を務めているけど、ちゃんと仕事をやれているのか心配になってきたよ」
「コイツ、なにを……?」
アインが怪訝そうな顔をするけど、気にしないで言葉を飛ばす。
「見込み違いだったのかな? 俺の知っているクラウディアは、自分にちょっと自信が持てなかったりするけど、でも、とても強い女の子のはずだ。そんなヤツに従うなんて、絶対にありえない。自分で跳ね除ける力を持っているはずだ」
「……」
「その男の言いなりになっていたのかもしれないけど、でも、それは昨日までのはずだ。決別する強い意思を見せてくれたじゃないか! だから、負けないで!」
「……っ……」
「クラウディアなら、そんな男に負けないって、信じているから。俺が保証するよ。絶対に大丈夫、今なら勝つことができる」
「……ぅ……ぁ……」
「だから……負けるなっ!!!」
「っ……!!!」
ビクン、とクラウディアの体が震えた。
「なんだと……?」
「わたくし……はぁ!!」
魂から絞り出すような、そんな声。
クラウディアは己の全てを振り絞り、天使の鈴の力を……
家の呪縛を、自分の力で振り払う。
「もう、家の言いなりにはなりませんわっ!!!」
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