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164話 愚者の選択

「くそっ!」


 学院の客間に滞在するアインは、苛立つ心を鎮めることができず、手近にあったゴミ箱を蹴飛ばした。

 ガンッ、と大きな音が響いてゴミ箱が転がる。


 書類などのゴミが散乱して……

 それを、何度も何度も踏みつけた。


「くそくそくそくそくそぉっ!!!」


 ダンダンダンッ! と激しい音が響く。


 子供が地団駄を踏んでいるようにも見えるのだけど……

 アインの目は血走っていて、口から泡を吹き出しそうな勢いで、狂人の一歩手前という感じだった。


「落ちこぼれのくせに、ファナシス家の次期当主に逆らおうとするなんて、くそっ、ふざけた妹だ。なめやがって!」


 普段の口調も忘れて、激高するアイン。


 正確に言うのならば……

 あの日、あの時、アインに逆らい手をあげたのはハルなのだけど、そんなことは忘れていた。

 全てクラウディアが悪い。

 アインの幼い思考回路は、そのような結論を出して、妹に対する怒りを募らせていた。


 客観的に見るのならば、理不尽な理由で妹に手をあげていたアインが責められるべきだろう。

 しかし、アインはそのような考えに至らない。


 自分はファナシス家の次期当主であり、その権利を持たないクラウディアは無能。

 落ちこぼれ。

 自分に従うことが当然であり、一切の反論は許されない。

 むしろ、アインの考えるところを察して、自ら行動しなければならない。


 そんな身勝手極まりないことを、至極当然のように考えていた。

 それこそがアインの思考回路であり、アインの世界なのだ。


「魔法学院の生徒会長になったから、いい気になっているのか? 自分は有能だと、そう錯覚しているのか? だとしたら、とんだ勘違いだ。兄として、妹の愚かな考えを正さないといけないな……ふは、はははっ」


 クラウディアの政略結婚を進めることは確定だ。

 今更撤回することなんてありえないし、なにがあろうと推し進める。


 ただ、その前にやらないといけないことができた。

 尊い兄に反抗した愚かな妹を断罪しなければならない。


 ただ殴りつけるだけでは物足りない。

 もっと激しい罰を。

 もっと厳しい罰を。


 鞭打しにしてやろうか?

 あるいは、水責めにしてやろうか?

 それとも、女に生まれたことを後悔させてやろうか?


 アインは、そこらの盗賊とほとんど変わらないことを考える。

 それは、彼の人柄を表しているかのようだった。


「今はどこかに出かけているみたいだが……戻ってきたら、躾をしなければならないな。そのための準備を……」

「はてさて。お主には、他にしなければならないことがあるのではないか?」

「っ!?」


 突然、聞き覚えのない声が響いて、アインは慌てて振り返る。

 見たことのない老人が柔和な笑みを浮かべていた。


 見た目は、ただの老人。

 しかし、その身から発するオーラは常人のものではない。

 得体のしれない化け物を相手にしているみたいで……

 蛇に睨まれたネズミのごとく、アインは動けなくなってしまう。


 そんな彼を見て、老人は感心したような声をこぼす。


「ほう。儂を見て騒いだり、さきほどのように怒鳴ったりしないか。危機感知能力には長けているみたいじゃな」

「お前は……何者だ?」

「儂か? ふむ……まあ、魔人と言っても理解できないであろう。儂のことはどうでもいいではないか」

「……」

「それよりも、お主のことじゃ。儂は親切だから忠告してやるが……お主、今のままでは破滅するぞ?」

「なんだと?」


 得体の知れない相手の言葉とはいえ、聞き逃がせない言葉だった。


 老人に対しての警戒を解いたわけではない。

 むしろ、今まで以上に警戒心が膨れ上がる。


 それでも、あえて一歩踏み込んでみることにした。


「それは……どういう意味だ?」

「お主が愚かと呼ぶ妹によって、破滅を迎えるのじゃよ」

「なんだと?」

「儂の言うとおりにすれば破滅を免れることができるが……さて、どうする?」


 それは、まさしく悪魔の誘いだった。

 常時のアインであれば、老人を訝しみ、怪しげな誘いをはねのけていただろう。


 しかし、クラウディアのことを持ち出されたことで、常識と理性が蒸発して……

 危険な選択肢であると、それを手に取ることを選んでしまう。


「……いいだろう。聞いてやろうじゃないか」

「ほっほっほ、賢明な判断じゃな。歓迎しよう。儂の名は、マルファス……基本的に傍観者であるが、探求者でもある」

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再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
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