表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

162/547

162話 精霊剣士

 弾けた光が一箇所に集合して、小さな人型をとる。


 その子……って、呼んでいいのだろうか?

 小さな光の子は、犬がそうするような感じで、アリスの回りをじゃれるように飛ぶ。


「もしかして、精霊?」

「正解」

「この前見た時は、ただの光の球だったような……?」

「学院の授業のおかげね。精霊を使役する方法を教わって……あと、名前をつけたの。そうしたらこの子の力が増して、進化っていうのかしら? こうなったの」

「ふふっ、こうして見ると、とてもかわいらしいですね」


 アンジュが指先を差し出すと、精霊はくるくると近くを飛ぶ。

 犬が匂いをかいで、色々と確かめているみたいだ。


「アリスさん。あなたは、精霊の力を借りて、ゴーレムを撃破したのですか?」

「ええ、そうね」

「すさまじいですね……精霊の力もそうですが、意思疎通を可能とするアリスさんの才能も驚愕です」

「そうなの?」

「精霊はとても気まぐれですから。素直に力を貸してくれるなんて、ほとんど聞いたことがありませんし……こうして懐いているなんて、初めて見ますわ」

「そうなんだ? でも、意外ね。この子、すごくかわいらしくて、簡単に懐いてくれたわよ」

「それは、アリスの人徳じゃないかな? きっと、アリスが優しいことを見抜いたんだよ」

「ハルにそう言われると、照れちゃうわね……でも、そう言ってもらえるとうれしいわ。ありがと」


 アリスが笑顔を見せて……

 精霊……ヒカリもお礼を言うような感じで、くるりと宙で回転した。


 そっくりというか、なんというか。

 なかなか良いコンビになりそうだ。


「精霊を使役する剣士……なら、アリスさんは、精霊剣士でしょうか?」

「どう、かしら? 職業は自分で決められるものじゃないし……」

「ですが、精霊剣士は、確か存在するはずですわ。今のアリスさんならば、精霊剣士になっていたとしてもおかしくありませんね」

「そうなのね。今度、ギルドで冒険者カードを更新してみましょうか?」


 ちょっと楽しみにしているらしく、アリスは笑顔だ。


 ふと思う。

 今まで以上の力を得ることができて、アリスは喜んでいるみたいだ。


 それはそうだろう。

 魔人という脅威を知った以上、力があればあるほどうれしい。


 ただ、魔人のことは俺の問題だ。

 自分から関わらないようにすれば、今後、接する機会はないと思う。

 アリスがこうして付き合ってくれているのは、俺のため。


 そのことはありがたいし、うれしいとも思う。

 ただ、俺のわがままにずっと付き合わせるなんて、正しいことなのか?


 アリスも……アンジュも、なにも気にしていないと思う。

 そういう人だから。


 でも、そんな彼女達の優しさに甘えてばかりでいいものか?

 甘えるにしても、なにかしらの形にして、恩を返すべきではないか?

 ふと、そんなことを思った。


「ハル、どうしたの?」

「……ううん、なんでもないよ」

「では、先に進みましょう。ゴーレムは無事に倒せることができたから、もう問題ないはずですね」


 念の為、遠くから投石などをして、ゴーレムが完全に沈黙したことを確認する。

 反応がないことを確かめた後、残骸の横を通り、扉の手前へ。


「ずいぶん大きな扉だね」

「巨人専用、と言われたら納得してしまいそうです」

「これ、あたし達が開けられるのかしら? 相当な力が必要っぽいけど……」

「大丈夫ですわ。扉のサイズが大きいのは、色々なものを搬出する必要があるから。巨人が使用していたというわけではないので、きちんと、わたくし達でも開けることができる設計になっていますわ」

「なら……んんんっ」


 扉をおもいきり押してみるものの、ビクともしない。

 ならばと引いてみるが、やはりビクともしない。


「これ、本当に開けられるの?」

「鍵がかかっているので、動かないだけですわ」

「それ、最初に言ってほしかった……」


 無駄にくたびれた。


「鍵は持っているの?」

「もちろん、ありませんわっ!」

「なぜドヤ顔かしら……?」

「じゃあ、スキルとかで解錠するしかないのかな? アリスは、解錠スキルある?」

「ううん、持っていないわ」

「すみません、私も持っていません……ハルさんは?」

「俺もないなぁ」

「あら。この扉は、普通の鍵では開きませんわよ。なので、解錠スキルを持っていたとしても意味ありません」


 だから、そういうことは早く言ってほしい。


「なら、どうすれば?」

「こうして、魔力を流すのですわ」


 クラウディアが扉に触れた。

 魔力を注ぎ込んでいるらしく、その手に淡い光が宿る。


 一分後……


「ぜぇっ、ぜぇっ、はぁはぁ……」


 かなり疲れた様子で、クラウディアが息を切らしていた。


「大丈夫?」

「だ、大丈夫ですわ……ちょっとした魔力枯渇状態というだけですので」


 それは大丈夫といえるのかな?


「このタイプの扉は魔力を注げば開くのですが……どうやら、相当な魔力が必要な様子。これは厄介ですわね」

「どうやって魔力を注ぎ込めばいいの?」

「簡単ですわ。扉触れて、手に魔力を集中させるだけ。そうすれば、自動的に魔力が注ぎ込まれていきますわ」

「こうかな?」


 言われた通り、扉に触れて魔力を集中させる。

 すると、ぐんぐんと魔力を吸い取られていく感触が。


「おぉ、これは……」

「う、迂闊に触れない方がよろしいですわ。わたくしでさえ、いっぱいいっぱいだったというのに、他の人が触れればどうなるか……」

「クラウディア」

「クラウディアさん」


 アリスとアンジュが、慌てるクラウディアの肩にぽん、と手を置いた。


「「大丈夫」」

「え? え?」

「ハルなら、たぶん、問題ないわ」

「そうですね、ハルさんですから」


 妙な認識をされているところが、ものすごく気になるのだけど……

 まあ、それはそれ。

 今は、扉を開けることに専念しよう。


 集中して、さらに魔力を注ぎ込む。

 ぐいぐいっと勢いよく吸われている感触はあるものの、でも、危機感はない。

 軽い疲労を覚えるくらいで、クラウディアのように息切れを起こすこともない。


 ややあって……


「お?」


 ガコンッ! という大きな音が響いた。

 扉の表面に光の線が走り、魔法陣を描く。


 それが合図となり、ゆっくりと扉が開いた。


「なぁ!? そ、そんなまさか……この扉を開けるには、普通の魔法使い、百人分の魔力は必要だったはず。それを一人で補うなんて……しかも、まだ余裕が見えるなんて……」


 クラウディアが愕然としていた。


「あなた、いったいどういう体をしていますの……?」

「ハルだからね」

「ハルさまですから」


 だから、妙な認識を共通させないで?


『面白かった』『続きが気になる』と思って頂けたなら、

ブックマークや☆評価をしていただけると、執筆の励みになります。

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ