161話 とっておきの秘策
「みんなは援護をお願い。ダメージを与えようとしなくていいから、あたしが接近しやすいように、目くらましとかをして」
「目くらましとなると……」
入学試験の時のことを思い返した。
「クラウディアは、火か氷の魔法は使える?」
「どちらも使えますわ。生徒会長を舐めないでくださる?」
「なら……」
作戦を伝える。
クラウディアは驚いたような顔をして、次いで、なるほどと納得顔に。
「では、それでいきましょう」
「ハルさん、私はどうしましょう?」
「アンジュは、身体能力強化魔法は使えたっけ?」
「えっと……すみません、難しいです。ただ、持続性のある簡易結界ならば……」
「うん、それで十分だよ。それをアリスに」
「わかりました」
アンジュが魔法を唱えて、アリスの体が淡い光に包まれる。
簡易結界なのだろう。
「んー……なんか、不思議な感触ね。この結界、どれくらいまで平気なの?」
「普通の魔物なら、しばらくは持ちこたえられるほどの耐久性はあるのですが……」
アンジュはちらりと彼方の石像を見て、苦い表情に。
「あのような相手となると、あまり期待しない方がいいかもしれません。一撃は耐えられると思いますが、それ以上は難しいかと」
「なるほど……わかったわ」
「すみません、もっと強力な結界を展開できればよかったのですが……」
「気にしないで。一撃でも耐えられるのは、けっこう、うれしいことよ。ありがと、アンジュ」
これで準備完了だ。
あとはアリスを信じるのみ。
もしかしたら失敗するかも。
危険かもしれないから、やめておいた方がいいかも。
……なんてことは思わない。
アリスは、自分は低レベルで下級職業の剣士と卑下しているみたいだけど……
俺は、そんなことはないと思う。
頭の回転が速く、いつも最適な行動に至ることができる。
それに度胸もあって、とても頼りになる。
何度、アリスに助けられてきたことか。
というより、アリスがいなければ今の俺はない。
そんなアリスがやれると言うのなら、なにも問題はない。
俺は、彼女を信じている。
「ハル、カウントダウンをお願い」
「アリスのタイミングじゃなくていいの?」
「うん、ハルに任せるわ」
「了解」
期待を裏切らないように、しっかりとがんばろう。
「じゃあ……俺とクラウディアがちょっとしたことをして石像の注意を引いて、同時に視界を塞ぐから、それが合図っていうことで」
「ちょっとふわっとしているのね」
「大丈夫、見ればわかるから。不安?」
「ううん。ハルを信じているわ」
それは、なによりもうれしい言葉だった。
「じゃあ……」
クラウディアと顔を見合わせる。
それから、カウントダウンを開始。
3……2……1……
「ファイア!」
「フリーズ!」
心の中で0と数えると同時に、俺とクラウディアは、それぞれ魔法を唱えた。
俺は、初級火魔法。
クラウディアは、初級氷魔法。
それぞれの魔法はまっすぐに飛んで……
ゴーレムの手前で交差して、ボフンッ、と爆発した。
水蒸気が一気に広がり、視界がゼロになる。
シノを相手にした時と同じ、魔法の相殺による現象だ。
この隙を逃すことなく、アリスが駆けた。
抜剣。
両手で剣を支え、水平に保ち、石像に接近する。
「ヒカリ、お願い」
なにかつぶやくのが聞こえた。
それを合図にするかのように、アリスの剣が光り輝く。
見えたのはそこまで。
アリスも水蒸気の中に突入してしまい、見えなくなってしまう。
大丈夫だろうか?
アリスならば、と思うものの、それでも心配なものは心配だ。
ザンッ!!!
ほどなくして、なにかを断ち切る重厚な音が聞こえてきた。
アリスが石像を切ったのだろうか?
そう思うのだけど、水蒸気のせいでなにも見えず、確信が持てない。
もどかしい時間が過ぎて……
「みんな、もう大丈夫! これ、なんとかしてもらってもいい?」
「了解ですわ。ウインド!」
アリスに応えるように、クラウディアが初級風魔法で水蒸気を散らした。
視界が晴れると、元気そうなアリスの姿が。
それと……頭部を切り落とされて、動かなくなった石像が。
「アリスっ、大丈夫?」
「見ての通りよ」
「よかった、無事に倒すことができて……」
「なによ。ハルってば、ダメだと思っていたの?」
「そうじゃないけど、やっぱり心配だから。アリスになにかあったらって思うと、とてもじゃないけど落ち着くことはできないよ」
「ふふっ、大丈夫よ。あたしも、いつまでもハルに頼り切りじゃいられないもの。こうして、役に立ってみせるわ」
「アリスは隣にいてくれるだけで、すごく安心するよ」
「……そういう台詞、ちょっと恥ずかしくなるじゃない。でも、ハルの心のケアができていたのなら、うれしいわ」
「それにしても、いったい、どのようにして石像を倒したのですか?」
クラウディアが心底不思議そうに言う。
そこは俺も気になる。
見ると、石像は綺麗に頭部を切り落とされていた。
よほど鋭いもので切られない限り、こうはならないと思うのだけど……
でも、アリスの剣は普通のもので、石を切るなんて不可能だったはず。
いったい、どうして?
アンジュとクラウディアも同じ疑問を抱いているらしく、小首を傾げていた。
そんなみんなに説明するように、アリスが口を開く。
「これ、あたしの秘策よ」
「なにをしたの?」
「この子の力を借りたの。出てきて、ヒカリ」
アリスがそう呼びかけると、ポンッ、と光が弾けた。
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