158話 いいの?
Aチームは、俺とアリスとアンジュとクラウディアだ。
Bチームは、ナインとサナとシルファ。
生徒と従者で分かれることになったのだけど……
若干、不安が残る。
サナとか、「待つのがめんどくさいっす! 暇つぶしに遊ぶっす!」とか言い出して、本を焼き払ったりしないかな?
けっこう心配だ。
まあ……ナインが一緒だから、うまい具合にまとめてくれるだろう。
たぶん。
そう信じることにした。
「それで、クラウディア。魔道具がどこにあるか、心当たりは?」
「わたくしは詳しく知りませんが、学院長からメモを預かってきました」
みんなでメモを見る。
『魔道具の名前は、天使の鈴。文字通り、鈴の形をしているよ。大きさは手の平サイズ。天使のような翼が装飾されているから、見ればわかると思う』
なるほど、と納得した。
メモの通りならば、一目見れば判断できるだろう。
ただ……
「手の平サイズといっても……どこから探せばいいのかな?」
振り返ると、超巨大な図書館ダンジョンが。
彼方が見えないし、上も果てが見えない。
下も霞んでいて、落ちたら、まず助からないだろう。
「形がわかっていても、これだけ広いと、海に落ちた貝殻一つを探すようなものね」
「なにか手がかりはないのでしょうか……?」
「ふふん、わたくしに任せてくださいな」
困っていると、クラウディアが得意顔で前に出た。
「実はわたくし、探知魔法を使えますの」
「探知魔法?」
「特定の人物や物を探すことができるという、名前の通りの魔法ですわ……まさか、ハルさんも探知魔法が使えるとか言いませんよね?」
「ううん、俺は使えないよ」
「そ、そうですか……ほっ」
なぜか、クラウディアがほっとした様子だった。
それを見て、アリスとアンジュが、その気持ちわかるよ、というような感じで頷いている。
どういうことだろう?
「なら、探知魔法を頼りにすれば、すぐに見つけることができる?」
「それは……」
「なにか問題が?」
「ある程度の場所、距離は把握できるのですが、ハッキリとした場所を特定することはできず……」
「おぉっ、それはすごいね!」
「え?」
手がかりゼロの状態で、広大な砂浜の中から小さな石を見つけるようなもの。
これはもう、ほぼほぼ無理だな、なんて思っていたのだけど……
でも、ある程度の場所と距離がわかるのなら、どうにかなる。
そんなことができるなんて、クラウディアは、やはりすごい魔法使いだ。
「ちょ、や、やめてください」
そんな感想を口にすると、なぜかクラウディアが赤くなる。
「どうしたの?」
「あなたのような、とんでもない魔力の持ち主に褒められるなんて、むずがゆいというか照れくさいというか……はっ。もしかして、わたくしをからかっていますの?」
「なんで、そんなことをしないといけないのさ。俺には使えない魔法で、けっこうコントロールとか難しそうだし……そんなものを使えるクラウディアは、やっぱり優秀な魔法使いなんだなぁ、って思っただけだよ」
「……」
「クラウディア?」
「な、なんでもありませんわっ」
照れている……のかな?
でも、どうして照れるのか、その理由がわからない。
「もう、ハルってば……いい加減、自分がどんな台詞を口にして、それが相手にどういう影響を与えるのか、ちゃんと考えてほしいんだけど」
「むぅ……なぜでしょうか? とてもモヤモヤします」
二人も謎の反応を示していた。
なんで?
「と、とにかく。わたくしの探知魔法を頼りに、ある程度の範囲を絞り込みましょう。おそらく、十メートルくらいまでは絞り込むことができると思うので……その後は、人海戦術で探すことにいたしましょう」
「うん、それでいいと思うよ。アリスとアンジュは?」
「ええ、問題ないわ」
「同じく」
「では、出発ですわ」
さっそく、クラウディアが探知魔法を使用した。
その結果……
目的の天使の鈴は、数キロ先という、とんでもない答えが。
それだけの距離があるのに、探知結果に引っかかるなんてすごい魔法だなぁ、と感心して……
一方で、それだけの広さがあるのかと、改めて図書館ダンジョンの非常識さを知った。
探知魔法を使い、案内役であるクラウディアと、いざという時の護衛役の俺が並んで先をゆく。
少し離れたところをアリスとアンジュが続いていた。
図書館ダンジョンは魔物もいるらしく、さらに、トラップも満載だという。
魔法書や魔道具が干渉することで、常識外の現象が起きることもあるのだとか。
なので、速度は落ちるものの、最大限の警戒をして進む。
「……ねえ、クラウディア」
警戒は怠らず……でも、気になることがあり、クラウディアに声をかける。
「なんでしょうか?」
「今更の話というか、俺が言うことじゃないんだけど……これでよかった?」
家を潰すこと。
両親と兄を退けること。
家族に認められたいと思っていたクラウディアにとって、最善とはとても思えない。
俺が最善と思うだけで……
しかし、彼女にとっては妥協に妥協を重ねた結果なのかもしれない。
もちろん、今になって計画を中止することはありえない。
クラウディアの気が変わったとしても、説得するつもりではいる。
それでも、できることならば彼女の気持ちを尊重したいと思い……
もう一度、気持ちを尋ねることにした。
「はい、問題ありませんわ」
クラウディアは迷うことなく即答した。
その顔はいつもと変わらない。
無理をしているのか、本心からなのか……いまいち判断がつかない。
彼女の気持ちを確認することは、俺の自己満足でしかない。
正しいことをしているんだと、自分を納得させて、楽な気持ちになりたいだけでしかない。
そのことを認めた上で……
やはり、と思ってしまい、もう一度尋ねる。
「本当に?」
「はい」
「そっか……それならいいんだ。ごめんね、今更、変なことを聞いて。どうしても、もう一回、確認しておきたくて」
「お気遣い、ありがとうございます。ですが、心配無用ですわ。家のことならば、もう吹っ切れました。まあ、欠片も気にしていないと言うと、さすがにウソになりますが……ですが、心の拠り所ならば他にできたので」
「え、そうなの?」
「はい」
なぜか、クラウディアがじっとこちらを見つめてきた。
それが意味するところがわからず、俺は首を傾げるのだった。
「むぅ……さらにモヤモヤしてきました」
「またたらしこんでいるし……もうっ、ハルったら!」
そして、なぜか、後ろの方から鋭い視線が飛んでくるのだった。
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