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154話 迫りくる悪意

「シノの……解任?」


 思わぬ展開に驚いてしまう。


 俺が引き起こした問題なのに、どうしてシノが……


「って……ああ、そういうことか」


 なんとなく、ファナシス家……アインの考えていることが理解できた。

 なんというかまあ……

 色々とつまらないことを考えるものだ。


「師匠、師匠。一人で納得顔してないで、どういうことか教えてくださいっす。自分、さっぱりっすよ」

「え? ああ……うん、ごめん。ちょっと、あれこれと考えてたから」

「それで、どういうことなんすか?」

「えっと、俺の推測で確証はないんだけど……」


 アインの考えていることは、以下の通りになるだろう。


 俺に対する報復なら簡単だ。

 貴族の権力、特権を活かして、俺を引き渡せと命令するだけでいい。

 あるいは、退学をさせろ、とか。


 クラウディアに八つ当たりをすることも簡単。

 彼女を連れて帰り、誰にも邪魔されないところで好き勝手すればいい。


 そうしないということは……

 俺を利用して、魔法学院のトップの座を得ようとしているのだろう。


 魔法の最先端技術、知識を有する魔法学院のトップの座を狙う者は多い。

 アインもその一人なのだろう。


 おそらく、どうにかしてその技術と知識を手に入れようと、前々から画策していたはず。

 クラウディアに接触してきたのも、計画の一環なのだろう。


 そんな中、俺がアインを殴り飛ばすという事件が起きた。

 プライドが高そうなアインとしては、腸が煮えくり返るような思いだろうけど……

 単純な報復に出るようなことはしないで、その事件を利用して、シノの解任を要求した。

 そして、自分が代わりに学院長の椅子に座る。

 今後、そんな流れになっていくと思う。


「はー……な、なるほど?」


 サナは小首を傾げて、あまり理解していない様子。

 ただ、他のみんなは納得した様子だった。


「なるほど……確かに、ハルさまの仰ることは、かなり可能性が高いでしょうね。ファナシス家のことは詳しく知りませんが、とても狡猾な家であるということは存じております」

「ナインに同じく、私もハルさんの意見に賛成です。その可能性がとても高いと思います」

「ということは、ハルがアインを殴り飛ばさなくても、シノの解任要求が行われていた可能性は高い、ということね。それなら、あたし達に非はないということで……」

「そんなわけあるか! 確かに、そういう流れになるかもしれないけどね。でも、発端となったのは、間違いなくハルくんのせいなのだぜ?」

「あはは、だよねー」


 さすがにごまかすことはできないか。


「まったく……頭が痛いよ。ファナシス家の狙いは、僕も気づいていた。ただ、相手が相手だから、もっと慎重に、準備を万端にして事を進めたかったんだけど……誰かさんのせいで、一気にこんな事態に陥ってしまった」

「どんまい」

「キミ達が原因なんだけどねぇ!?」


 シルファの適当な励ましの言葉に、さすがのシノもキレた。

 ダンダンダンと机を両手で叩く。

 見た目が見た目だから、駄々をこねている子供みたいだ。


「あー……ホント、頭が痛いよ。これ、どうしたものかな」

「あの……」


 疑問顔でアンジュが質問をする。


「その要求をはねのけることはできないのですか? 魔法学院は、干渉不可能な場所と聞いていますが」

「基本はそうだけどね。でも、なんでもできるわけじゃないんだ。僕らに非がある場合は、それを素直に認めて、適切な対処をしなければならない。好き勝手していたら、いくら魔法学院とはいえ、やっていけないからね。僕らは力と知識を持つけれど、それだけで生きていくことはできないんだよ」

「それは……はい、その通りですね。つまらない質問をすみません」

「いいさ。他に質問のある人はいるかい?」

「はいっす」


 サナが挙手する。


 サナのことだから、突拍子もない質問をしそうだ。

 そんなことを思っていたのだけど、


「結局、シノはこれからどうするっすか?」


 意外というと失礼になるのだけど、問題の確信に迫った質問だった。


「そこなんだよね……はぁあああ」


 ものすごく困ったようなため息。

 学院長ともなると、色々と大変なんだろうなあ……

 と、ついつい他人事のような感想を覚えてしまう。


 いけない、いけない。

 俺が招いたことなのだから、もっと当事者意識を持たないと。


「ファナシス家の……というより、アインの目的は、僕を解任して、代わりに自分が学院長になること。そうすれば、知識と技術を独占できるからね。でも、もちろん、そんなことを許すわけにはいかない。向こうも、そこまで全部うまくいくとは思っていないだろうから、ハルくんとクラウディアくんの引き渡し……それと、いくつかの技術、知識提供で手を打つ、と言ってくる感じかな?」

「学院長は、それで手を打つつもり?」


 アリスが険しい顔になる。

 アリスだけじゃない。

 アンジュ、サナ、ナイン、シルファ……みんな厳しい顔をしていた。

 そんなことは絶対に許さない、という感じだ。


 それだけ大事に思われているということ。

 改めて、良い出会いができたのだと、うれしく思う。


「そんなに怖い顔をしないでくれよ。僕とて、そんなバカげた要求を飲むつもりはないさ。ハルくんもクラウディアくんも、ウチの生徒だ。生徒を売るような教育者なんていないさ。そもそも……」


 シノは小さな声で、「ハルくんを売れば、他の連中がどんな反応をするか」と、愚痴のようにこぼす。


 その言葉に、みんなは不思議そうにしていたのだけど……

 俺は、その意味を理解していた。


 シノは、とある魔人の使徒だと言っている。

 他の連中というのは、おそらく、魔人のことだろう。


 よくわからないけど、俺は魔人から重要視されているらしい。

 そんな大事な観察対象を売り渡すようなことをすれば、どうなるか。

 ろくでもない結末しか待っていないだろう。

 そのことを理解しているからこそ、シノは頭を悩ませている。


「とはいえ、逆らい難いことは事実なんだよ。魔法学院は、ある程度の自治が認められているもの、でも、基本的に学術都市に所属しているんだ。上からの命令であれば、拒むことは難しい」

「……あの」

「なんだい、クラウディアくん」

「わたくし……魔法学院をやめて、家に戻ろうと思います……」

「えっ」

「今回の件は、そもそもがわたくしの問題から発展したこと。家に戻り……家族の要求を受け入れれば、多少は、兄の機嫌も良くなるでしょう。そこで、なんとか話をつけて、今回の要求を撤回させることは可能だと思います。ですから……」

「却下」


 クラウディアの言葉を途中で遮り、俺は強い口調で言う。


 本来なら、シノが決めるようなことなのかもしれないけど……

 でも、口を挟まずにはいられなかった。


「俺達の話、忘れたの? 力になるって言ったじゃないか」

「ですが、ここまで大きなところに迷惑をかけてしまうなんて……」

「……自分が我慢をして、誰かを守る。そんなことをされても、守られた方はぜんぜんうれしくないよ」


 幼馴染のことを思い返した。


 レティシアは、なにかしら目的があるのだと思う。

 たぶん、だけど……

 悪魔に取り憑かれたことも、俺を守るためのことだったと思う。


 根拠はないのだけど……

 でも、俺の幼馴染はそういう強い子なのだ。


「自分を犠牲にするなんてやり方、俺は、絶対に認めない。犠牲なんて……もう、絶対に生み出さない」


 改めて口にすることで、誓いを立てるのだった。


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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] やっと追いついたー アンジュのハルの呼び方が統一されてないww
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