表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

148/547

148話 兄と妹

 声の方向に視線をやると、メガネと白衣が特徴的な男が。


 はて?

 見た感じからして学生には見えないから、教師だろうか?

 でも、この人の授業を受けたことはないし、今まで、学院内で見かけたこともない。


「……お兄さま……」


 誰だろう? と首を傾げていると、クラウディアが掠れた声で言う。


 お兄さま?

 この人が?


「探したよ。まさか、こんなところにいるなんてね。出来損ないとはいえ、ファナシス家の一員であるクラウディアが、まさか、こんなところで食事をとっているなんて。やれやれ、あまり恥ずかしいことをしないでくれよ?」

「あ、う……も、申しわけありません……」


 さきほどの勢いはどこへやら。

 クラウディアは体を小さく震わせて、うつむいてしまう。

 親に叱られた子供のようだ。


 こんなクラウディア、初めて見る。

 いったい、なにが……?


「僕からの連絡は届いていたかな?」

「えっと……も、申しわけありません。なんのことでしょうか……?」

「ふむ? ウソはついていないかい? ごまかそうとしていないかい?」

「そ、そんなっ、めっそうもありません!」

「……どうやら、ウソはついていないみたいだね」


 一瞬、男が険しい表情になるものの、それはすぐに収まった。

 にこにこと笑顔を浮かべる。


「なら、どこかでミスが起きたのだろう。まったく、困ったものだね。クラウディアと同じで、使えない者が多い」

「は、はい……」

「ミスをした者は、今後、特定して、しっかりと教育することにして……まあ、それは後回しだ。クラウディア、キミに話がある」

「ど、どのような話でしょうか……?」

「んー……さすがに、人前でする話ではないからね。キミの部屋に案内してくれるかい?」

「わかりました……」


 クラウディアは、未だに小さく震えていた。

 怯えているのだろうか?

 あれだけ強気で、まっすぐな彼女がこんな風になってしまうなんて。


 この男、いったい……?


 話の内容を聞く限り、クラウディアの兄なのだろう。

 でも、なぜ、クラウディアがここまで怯えるのか?


「あの……」


 気になる。

 どうしても黙っていることができず、場違いかもしれないけど、口を挟む。


「ん? なんだい? あぁ、もしかして食事の邪魔をしてしまったかな? それは悪いことをしたね。このような場所でしか食べられないのだから、大変だろう」


 そこはかとなく、言葉に悪意を感じる。


 ただ、この男からは敵意はない。

 たぶん、自然に他者を見下しているのだろう。


 軽く深呼吸をして、心を冷静に保つ。


「……俺は、ハル・トレイターと言います。彼女……クラウディアの友達です」

「へえ、クラウディアに友達が……いやはや、これはおもしろいことになっているね。っと、すまないね。僕は、アイン・ファナシス。彼女の兄さ。気軽にアインと呼んでくれていいよ」

「では……アインさんは、学院の生徒じゃないですよね? それどころか、学術都市の関係者にも見えないのですが、どうしてここへ?」

「今、聞いていただろう? 妹に、ちょっとした話があるんだよ」

「その話というのは……」

「悪いが、それを話すことはできないね。家族の問題というヤツなのさ」


 そう言われたら、これ以上、問い詰めることはできない。


 できないのだけど……

 でも、ものすごく問い詰めたい気分だ。


 この男、気さくそうに見えて、言葉の節々に棘を感じる。

 顔は笑っているものの、心の中で相手を見下しているかのような……

 そんなイヤな感じがした。


 そんな男がクラウディアの兄という。

 家族の話があるという。


 クラウディアのことが気になる。

 気にならない方がおかしい。


「じゃあ、僕は行くよ。ほら、クラウディア、挨拶しておきなさい」

「……失礼いたします」


 クラウディアは無機質な声で言い、静かに頭を下げた。

 そのまま背を向けて、食堂を後にしてしまう。


「またどこかで」


 ひらひらと手を振りつつ、アインも食堂を後にした。


「……」


 残された俺達は、なんともいえない空気に包まれていた。

 アインとクラウディアのことが気になる……

 でも、家族の話と言われたら、これ以上、口を挟むことができない。


「ハル」

「あ……シルファ?」


 アインに気を取られて気づかなかったけれど、シルファもいたみたいだ。


「どうして、シルファがここに?」

「えっと……」


 案内をしてもらい、そのお礼に人探しを手伝った、という説明をしてもらう。


「アインの探し人がクラウディアとは思わなかったかな。シルファ、もしかして、余計なことをしちゃった? だとしたら、ごめんなさい」

「いや、謝ることじゃないよ。話を聞く限り、その時のアインさんは普通だったみたいだから……」


 でも、クラウディアを前にしたアインは、とても歪んでいるように見えた。


 感情を荒げることはなくて、終始、落ち着いているように見えたのだけど……

 しかし、棘のある言葉やクラウディアに対する悪意が感じられた。


 彼女が怯えていたことを考えても、アインが善人とは思えない。


 そんなアインが持ってきたという家族の話。

 どう考えても、ろくでもない話だろう。


「ハル、どうするの?」

「俺は……」


 クラウディアと知り合って間もないし、俺は友達だと思っているものの、彼女の方は同じ気持ちかわからない。

 いつもツンツンしているし、敵対的な感情を抱いているのかもしれない。


 でも。


「寄り道になっちゃうんだけど……でも、クラウディアが抱えている事情を知りたい。その上で、彼女が困っているのなら力になりたい」

「うん、それでこそハルよ。そんな優しいところは、とても好きよ」


 にっこりと、アリスが笑うのだった。

『面白かった』『続きが気になる』と思って頂けたなら、

ブックマークや☆評価をしていただけると、執筆の励みになります。

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[気になる点] クラウディアのことをシルファは知っていたはずなのに。 やはり混乱してしまう。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ