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146話 迷子のシルファ

 学院の廊下を、シルファがのんびりと歩いていた。

 両手を大きく広げて、山のような荷物を抱えている。


 授業の準備を手伝っていたのだけど、あれもこれもと次々に頼まれてしまい、その結果、自分の姿が見えなくなってしまうほどの量を運ぶことに。


 ただ、シルファにとってなにも問題はない。

 格闘術を極めているため、常識外の力を持ち、山のような荷物も簡単に持つことができる。

 バランス感覚も優れているため、一つも落とすことはない。


 山のような荷物を抱えているせいで、視界が塞がれているものの……

 周囲の気配を探り人を避けて、空気の流れなどで地形を把握しているため、そちらも問題はない。


 問題はないのだけど……


「うわっ」

「え? なに? 荷物が勝手に移動してる……?」

「あの子、大丈夫なのかな?」


 周囲の生徒達は驚いている様子で、何度もシルファを見たり、振り返ったりしていた。


 時に、手伝おうか? と声をかける生徒もいたが、シルファはそれを断る。


 これは自分の仕事。

 問題があるのならば、手伝ってもらうことも考えたが、特に問題はない。

 このまま作業を進めるだけ。


 しかし、とある問題が発生した。


「あれ? ……ここ、どこだろう?」


 迷子になった。


 目的地は倉庫。

 教師から口頭で聞いた通りの道を進んでいたのだけど……

 気がつけば、よくわからない場所に。


 土地勘がまったくないせいで、今、どこにいるのかさっぱりわからない。

 道を聞こうとしても、生徒の姿が見えない。


 さきほどはたくさんいたのに、なぜ……?


「……うーん、困ったね」


 淡々とした口調のせいで、本当に困っているのかよくわからない。


 さて、どうしたものか?

 適当に歩いてみるか。

 それとも、人を探して道を聞くか。


「おや?」


 迷っていると、人の声が聞こえてきた。


 バッと、シルファは勢いよく振り返る。


「誰!?」


 歳は二十半ばという感じか。


 穏やかな表情をしていて、どこかのんびりとした雰囲気がある。

 背は高く、スラリとした体型ではあるが、少し痩せている。


 メガネと白衣。

 安直ではあるが、研究者のように見えた。


「……」


 シルファは最大限に警戒をする。

 人見知りをしているわけではない。


 この男……まったく気配を感じさせなかった。

 気がつけば後ろにいて、声をかけられるまで、その存在に気づかなかった。

 ここが戦場だとしたら、死んでいただろう。


 もちろん、ここは魔法学院で、戦場などではないのだけど……

 しかし、それに等しい危機感をシルファは覚えていた。


「うーん、僕、そんなに怖い顔をしているかな? そこまで警戒されると、ちょっと傷ついちゃうんだけど」

「誰、と聞いた」


 シルファは背中に冷や汗をかいていた。

 数々の修羅場を潜り抜けてきたシルファの直感が、男を脅威と認定している。


 いつでも動けるように構える。


 対する男は……


「僕はなにもしないよ」


 敵意がないことを示すように、両手を上げた。


「……」


 シルファは警戒を解かない。

 男なら、この体勢からでも致命的な一撃を繰り出せるような気がしたからだ。


 シルファが睨みつけて、男が微笑み……

 ややあって、シルファが構えを解いた。


 男の正体は不明なのだけど、少なくとも敵意はない。

 そう判断したのだ。


「じゃあ、さようなら」

「え?」


 シルファは床に散らばった荷物を拾い直して、その場を後にしようとした。

 男は慌てた様子で回り込んでくる。


「まったまった」

「なにか用?」

「その荷物、大変そうだから手伝おうと思って」

「必要ない」

「おぅ……」


 一刀両断されてしまい、男が凹む。

 野良猫を餌付けしようとして、失敗して、さらに引っかかれたかのような……そんな感じで落ち込んでいた。


 そんな男を見て、ふと、シルファは思う。


 もしかして、悪い人じゃない?

 ただ単に、善意で声をかけてくれている?


「むう……」


 シルファは迷う。


 普通に考えれば、この男の助力を得るべきだろう。

 荷物は問題ないが、完全に道に迷ってしまった。

 自力でどうにかするとなると、かなり時間がかかってしまう。

 そうなると、授業の手伝いをするという役目を果たせないかもしれない。


 ただ……この男は、なにかある。

 シルファの中で培われた野生の直感が、そう告げていた。


「……荷物は平気だよ」

「そっか……」

「ただ、道に迷ったから、案内してくれるとうれしいかな」

「っ! うんうん、そういうことなら、僕に任せておくれよ。学院は、僕の庭と言ってもいいからね。どこへでも連れて行ってあげる」


 すぐに元気になる男に、やはり怪しい、と思うシルファだった。

 ただ、道に迷い困っていることも事実なので、このまま男の力を借りることにする。


「ボクは、シルファ。キミは?」

「アインだよ」

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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